「今月は稼働が読めないので、とりあえずクーポンを出しておきました」。私たちmicadoはホテル・旅館の運用を支援していますが、相談の最初によく聞く言葉です。売上の数字は動くので、打ち手として間違っていないように見えます。ところが四半期で振り返ると、「売上は伸びたのに、利益がほとんど残っていない」という声に変わります。
これは担当者の力量の問題ではありません。セールやクーポン、ポイント、広告が重なったときの本当のコストが、契約の数字からは見えないという、仕組みの問題です。この記事では、そのコストをの実質手数料と(予約1件の獲得にかかった費用)で可視化し、施策を続けるか止めるかを数字で決める手順を整理します。
の実質手数料とは、どう出せばよいですか?
最初に、物差しをそろえます。私たちは、のコストを2つの数字で見ています。売上に対してどれだけ払ったかを示す実質手数料の率と、予約1件を得るのにいくら払ったかを示すです。どちらも、契約の手数料だけでなく、施策のコストまで足して出します。皆さまの施設では、先月に払った額の合計を、すぐに答えられるでしょうか?
契約の手数料に、施策のコストを足して合計を出します
に払っているのは、契約の手数料だけではありません。施設が負担するポイント、会員向けのプログラムの費用、の中の広告費、施設が発行したクーポンの原資が、その上に積み重なります。私たちが支援する現場では、契約の手数料が1割程度でも、これらを足すと実際の負担が2〜3割に達しているケースを見てきました。
まず、媒体ごとにこれらのコストを1か月分書き出し、合計します。そのうえで、合計を同じ月の売上で割ったものが実質手数料の率、予約の件数で割ったものがです。たとえば、ある媒体で1か月に払った合計が60万円、売上が300万円、予約が100件なら、実質手数料の率は2割、は6,000円です。上乗せが生まれる経路の詳しい分け方は、OTA手数料の上乗せを扱った記事で整理しています。
率との両方を見るのは、比べる相手が違うからです
実質手数料の率は、同じ売上を上げるのにどれだけ払ったかを示すので、媒体どうしを比べるのに向いています。一方のは、予約1件あたりの額なので、1件の予約で手元に残る額と比べられます。単価の高い媒体は、率が同じでもが大きくなります。率だけを見ていると、1件あたりの負担が利益を超えていることに気づけません。反対に、だけを見ていると、単価の高い媒体ほど割高に見えてしまいます。2つを並べて見ることで、どちらの見誤りも防げます。
は、公式サイトからの予約にも出せます。予約システムの利用料や検索広告の費用を予約件数で割れば、と公式サイトを同じ物差しで並べられます。どちらに在庫や販促費を寄せるべきかを、感覚ではなく数字で話せるようになります。
表は月ごとに同じ形で残し、請求の時期のずれに気をつけます
計算は、表計算の1枚の表で十分です。媒体ごとの行に、契約の手数料、ポイント、広告費、クーポンの原資、売上、予約件数を並べ、毎月同じ形で記録します。高度な分析の道具は要りません。数字は、各の請求明細と、や予約の管理に使っている仕組みの予約データを突き合わせて拾います。大切なのは、毎月同じ項目を同じ形で残し、前の月と並べて見られるようにすることです。
気をつけたいのは、請求の時期です。施策のコストは、宿泊した月と別の月に請求されることがあります。今月使った広告費が翌月の請求に載ると、今月は利益が出て、翌月は出ていないように見えます。表には、宿泊した月に合わせてコストを置き直すと、判断を誤りにくくなります。置き直しが難しい場合でも、請求の月と宿泊の月がずれている項目に印を付けておくだけで、読み違いはかなり減ります。
その実質手数料は、どこまでなら許されるのですか?
実質手数料とが出たら、次はその数字が高いのかどうかを判断します。判断の基準は、ほかの施設の平均ではなく、自社の1件の予約で手元に残る額です。そこから、ここを超えたら縮める、という線を先に決めておきます。皆さまの施設では、にいくらまでなら払ってよいか、線を決めているでしょうか?
1件の予約で手元に残る額から、超えてはいけない線を決めます
最初に、1件の予約で手元に残る額を出します。平均の予約の単価から、清掃やリネン、アメニティ、食事の原価など、1件ごとにかかる費用を引いた額です。がこの額に近づくほど、予約が入っても利益は残らなくなります。この額は、媒体や客室タイプ、食事の有無によって変わるので、主な客室とプランごとに出しておくと判断が細かくできます。最初は大まかな額で構いません。
そこで、媒体ごとに、がここを超えたら施策を縮める、という線を決めておきます。手元に残る額のうち、どこまでを獲得の費用に使ってよいかを、施設の方針として決めるということです。線は、施策を始める前に決めます。始めたあとで決めると、結果に合わせて線を動かしたくなるからです。決めた線は、表の横に書いておき、毎月の数字と並べて見ます。
施策の重なりで、線を超えていないかを確かめます
実質手数料が線を超える原因として多いのが、施策の重なりです。のセール、ポイントの上乗せ、施設が出したクーポンが、同じ予約に同時に使えると、1件の予約に割引と費用が何重にも積み上がります。それでも予約の件数と売上は伸びるので、現場では、うまくいっているように見えてしまいます。稼働が落ちたから割引する、という反応が止まらなくなるのは、この見え方のせいです。
重なりを防ぐには、割引を率で決めるのではなく、月ごとのコストの上限で管理します。から企画の案内が届くたびに参加を決めるのではなく、上限を超える企画には出ないと先に決めておきます。上限を先に決め、その範囲の中で施策を選びます。重なりが起きる仕組みと防ぎ方は、OTAの二重割引を扱った記事で詳しく扱っています。
線を超えた媒体は、まず上乗せの項目から見直します
線を超えている媒体が見つかったら、契約の手数料ではなく、施設が自分で選んで出している上乗せの項目から見直します。契約の率は簡単には変えられませんが、上乗せは施設の判断で増やしも減らしもできるからです。
最初に見直しやすいのは、効果を測っていないまま出し続けているクーポンと、毎月なんとなく参加しているポイントの上乗せです。たとえば、が主導する共通のクーポン経由の予約がどのくらいの割合かを調べ、少なければ、対象を絞った自社型のクーポンに切り替えると、費用を抑えられることがあります。見直した月とその前の月の実質手数料を並べれば、効果はすぐに分かります。予約の件数も一緒に並べ、減っていないかを確かめます。

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施策の止めどきは、どう決めればよいですか?
実質手数料とで線を決めたら、施策ごとに続けるか止めるかを判断します。ここで大切なのは、施策の期間の予約の件数ではなく、その施策で増えた予約に、いくら払ったかを見ることです。施策がなくても入っていた予約まで成果に数えると、どの施策も効いているように見えてしまいます。皆さまの施設では、施策を止める基準を、始める前に決めているでしょうか?
施策で増えた予約だけを数え、その1件あたりの費用で判断します
施策の効果を見るときは、施策を出した日と出さない日、参加した期間と参加しなかった期間を並べ、その差を施策で増えた予約とみなします。そのうえで、施策の費用をこの増えた予約の件数で割ります。これが、その施策で予約1件を増やすのにかかった費用です。
この額が、先に決めた線を超えていれば、施策は縮めるか止めます。線の内側なら続けます。広告の効果は、売上を広告費で割ったでも見られますが、手数料やポイントを引く前の売上で見ると、実際より良く見えます。の中の広告と成果報酬の率の使い分けは、露出を買う前の判断を扱った記事で、広告のを利益で読む方法は、楽天トラベル広告の記事で整理しています。
割引率は、条件を変えた回を並べて詰めます
割引は深いほど予約が取れますが、そのぶん費用も乗ります。そこで、割引率を一律に決めず、少し浅くした条件と並べて、どこまで浅くしても予約が落ちないかを探ります。たとえば、ある期間は10%、同じ条件の別の期間は5%にして、予約の件数と手元に残った額を並べます。1回では偶然の影響が大きいので、数回分を積み上げてから決めます。比べる間は、同時に走るほかの施策を変えず、見る数字と判定の決まりを先に決めておくことが、あとで結論がぶれないための条件です。
ここまでを毎月の定例の中で回せると、実質手数料を出す、線と比べる、割引率を詰める、という流れが、担当者の勘ではなく施設の仕組みとして続いていきます。担当者が替わっても、表と線が残っていれば、同じ基準で判断を引き継げます。
ここは率直にお伝えします
施策をやめれば、そのぶん露出が下がり、掲載の順位に影響することもあります。露出と実質手数料は、片方を良くするともう片方が悪くなる関係です。止めることが常に正しいわけではなく、決めた線の内側で選ぶことが大切です。止めた施策があれば、その後の閲覧の数や順位の動きも見て、影響が大きければ条件を変えて戻すことも考えます。
また、この記事の「2〜3割」という数字は、私たちが支援先で見てきた例で、どの施設にも当てはまるとは限りません。媒体ごとの契約の条件も施設によって違います。自社の請求明細から、ひと月分を出すところから始めてください。単価を下げる施策は、私たちは最後の手段だと考えています。実質手数料を下げるために料金を下げるのではなく、上乗せの選び方を見直すことから始めます。

まとめ
のコストは、契約の手数料ではなく、ポイント、会員向けのプログラム、広告、クーポンの原資まで足した実質手数料で見ます。売上で割った率は媒体どうしの比較に、予約件数で割ったは1件で残る額との比較に使います。
1件の予約で手元に残る額から、超えてはいけない線を先に決め、施策の重なりで線を超えていないかを確かめます。施策ごとには、増えた予約1件あたりの費用で続けるか止めるかを判断し、割引率は条件を変えた回を並べて詰めます。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
施策は思いついても「どの順で・いつやるか」で止まっていませんか。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
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