「ほかのホテルで予約が伸びた施策を、うちでもやってみたい」。私たちmicadoはホテル・旅館のマーケティングを支援していて、こうした相談をよくいただきます。成功事例は、施策を考えるきっかけとして役に立ちます。ただ、同じ施策でも、施設の条件が違えば結果はまったく変わります。事例だけを見て施策を選ぶと、費用をかけたのに予約が増えない、ということが起こります。
この記事では、事例をどう読み、自社の施策をどう選ぶかという判断の軸を整理します。数字は、私たちが支援先のデータで比べた結果を、条件とあわせて示します。
ほかのホテルの成功事例は、そのまま使えますか?
最初に、事例の読み方をそろえます。成功事例には、何をしたかと、どんな結果が出たかが書かれています。しかし、なぜその施設で効いたのかという条件までは、書かれていないことがほとんどです。皆さまは、事例を読むときに、その施設と自社の条件の違いを確かめているでしょうか?
事例は、再現の条件とセットで読みます
同じ施策でも、施設によって効果が逆になることがあります。私たちが支援先のデータで比べた例では、じゃらんの「スペシャルウィーク」という企画は、効いた施設では閲覧から予約に至る割合が1.2倍前後に上がりました。一方で、同じ企画に参加して逆効果になった施設もありました。企画の良し悪しではなく、施設の立地や客層、価格帯との相性で結果が分かれたと私たちは見ています。だから私たちは、ほかの施設で効いた企画でも、まず自社で一度試して数字を確かめてから、続けるかどうかを決めるようにしています。
このため、事例を読むときは、結果より先に条件を確かめます。施設の規模、立地、主な客層、価格帯、その施策を始める前にどんな状態だったか。たとえば、予約が少なかった原因が露出の不足だった施設で広告が効いたとしても、原因が料金にある施設で同じ広告を出しても効きません。他の施設で効いたからといって、そのまま横に広げないことが、事例を使うときの一番の注意点です。じゃらんの企画の使い分けは、じゃらんのセールの使い方を扱った記事で詳しく扱っています。
出所と、比べた相手を確かめます
次に確かめるのが、事例の数字の出所です。誰が測ったのか、いつの数字なのか、何と比べた結果なのか。この3つが分からない数字は、判断の材料にしにくいと私たちは考えています。たとえば「前年比で予約が大きく増えた」という事例でも、前年が需要の落ち込んだ年なら、施策がなくても増えていた可能性があります。
また、施策を提供する側が自社の商品を紹介するために書いた事例は、うまくいった例が選ばれやすくなります。それ自体が悪いわけではありませんが、うまくいかなかった施設の数は分かりません。私たちが支援の結果を示すときも、何と比べた数字なのか、どの期間の数字なのかを一緒に書くようにしています。数字だけが独り歩きしないようにするためです。事例の数字は、条件と出所が分かるときにだけ、判断の材料として使います。条件が分からない事例は、数字ではなく「こういう打ち手もある」という発想の材料として読むと、判断を誤りにくくなります。
ホテルマーケティングの施策は、どの順番で選べばよいですか?
事例の読み方が分かったら、次は自社の施策の選び方です。施策の数は多く、どれも効きそうに見えます。だからこそ、選ぶ順番を決めておくことが大切です。皆さまの施設では、施策を選ぶ前に、予約が伸びない原因がどこにあるかを確かめているでしょうか?
原因を、土台から順に確かめます
私たちは、予約が伸びない原因を7つの層に分けて、上から順に確かめています。1つ目は在庫と販売の条件で、在庫が媒体に出ているか、プランと客室の紐付けや最低泊数の設定に漏れがないかを見ます。2つ目が価格で、競合や媒体の間の価格差、割引の重なりを見ます。3つ目が露出で、そもそも施設が表示されているかを確かめます。
その下に、閲覧されたあとに選ばれるか、需要そのものの変化、媒体の間の移動、キャンセルが続きます。大切なのは、上の層の問題を確かめないまま、下の層の話に進まないことです。「需要が減った」「競合に取られた」と考える前に、在庫が出ているか、価格が合っているか、表示されているかを確かめます。事例で見た施策が自社に合うかどうかも、この順番で原因を確かめたあとなら判断できます。原因が露出にあると分かって初めて、広告の事例が参考になります。反対に、在庫や設定の漏れが原因なら、費用をかけずに直せることも少なくありません。確かめる順番を決めておくだけで、施策の選び方はかなり変わります。
費用の小さい施策から、先に手をつけます
原因が分かったら、施策を選びます。私たちの運用では、選ぶ順番にも原則があります。最初に行うのは、ほかの施設もやっている掲載情報の更新です。写真や施設の説明、プランの内容を最新の状態にそろえることは、費用がかからず、ほかのすべての施策の効果を支えます。
次に、各の会員向けの施策です。楽天トラベルのボーナスプログラムや、Booking.comのGenius、じゃらんのプランなどがその例で、会員はその媒体でよく予約する層なので、確実に押さえます。そのうえで、国内のでは定期的なセールへの参加を続け、海外のでは掲載の順位を上げる広告かのどちらかを実行します。費用のかかる広告やクーポンを重ねるのは、この土台ができてからです。施策を足すときは、目標の売上に対して本当に必要か、月の予算の中に収まるか、似た需要の時期に過去どんな結果が出たかを、提案の前に確かめます。媒体ごとの役割の決め方は、OTA運用の戦略設計を扱った記事で整理しています。

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施策が効いたかは、どう確かめればよいですか?
施策を選んだら、最後は効いたかどうかを確かめます。ここを省くと、自社の施策も、他の施設の事例と同じように「なんとなく効いた気がする」で終わってしまいます。皆さまの施設では、施策に参加した日と参加しなかった日を、同じ物差しで比べているでしょうか?
同じ媒体の企画でも、効果はまったく違います
私たちが支援先のデータで比べると、同じ楽天トラベルの企画でも効果の出方は大きく違いました。「5と0のつく日」では、施設ページの閲覧数はほぼ変わらない中で、転換率が1.5倍前後、売上が2倍前後になっていました。一方で、得旅や季節セールでは、はっきりした効果を確認できませんでした。社内では効果があると思われていた企画でも、数字で比べると違う結果が出ることがあります。評判や担当者の印象ではなく、比べた数字で次の回の参加を決めることが、施策の費用を無駄にしない一番の方法です。
比べ方は、参加したかどうかと、企画の対象の日かどうかを掛け合わせた4つの組み合わせで見ます。参加した施設の対象の日だけ予約が伸びていれば、その企画の効果と考えられます。対象の日にどの施設も伸びているなら、需要が強い日だっただけかもしれません。期間中と期間外の比較もあわせて見ると、さらに判断しやすくなります。「5と0のつく日」の使い方は、楽天トラベルの「5と0のつく日」を扱った記事で詳しく説明しています。
ここは率直にお伝えします
この記事では、個別の施設の成功事例は載せていません。施設の条件と比べた期間を、読者が確かめられる形で示せる事例が見当たらないためです。外部の公開情報の事例も、出所と時点に加えて施設の条件まで確かめられるものに限って載せる方針としています。自社で事例をまとめるときも、施設の条件、比べた期間、比べた相手の3つを残しておくと、あとから読み返したときに判断の材料として使えます。ここで紹介した数字も、私たちが支援先で比べた結果であり、どの施設でも同じになることを約束するものではありません。
そして、施策を選ぶ前にもう1つ大切なことがあります。誰の、どんな困りごとに応えるのかを決めることです。私たちは、施策という「どう届けるか」の前に、「誰に、何を」を決めることを重視しています。ここが決まっていないと、どの事例を参考にすべきかも決められません。この考え方は、選ばれるブランドの築き方を扱った記事で整理しています。単価を下げる施策は最後の手段で、まずは内容と見せ方で解決を試みます。

まとめ
ほかのホテルの成功事例は、施策を考えるきっかけになりますが、そのまま使えるとは限りません。事例を読むときは、施設の条件と、数字の出所、比べた相手を確かめます。
自社の施策は、予約が伸びない原因を在庫と販売の条件、価格、露出の順に確かめてから選びます。費用のかからない掲載情報の更新と、の会員向けの施策を先に行い、広告やクーポンはその後です。施策を始めたら、参加したかどうかと対象の日かどうかの組み合わせで比べ、効いたかを自社の数字で確かめます。その積み重ねが、他の施設の事例よりも頼りになる、自社だけの事例になります。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
施策は思いついても「どの順で・いつやるか」で止まっていませんか。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
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