「売上を伸ばす打ち手は分かった。でも、それをやる時間がない」。私たちmicadoはホテル・旅館のマーケティングを支援していますが、打ち手の話を進めるほど、最後はこの声に行き着きます。24時間動き続けるホテルでは、日々の業務が積み重なり、売上を考える時間が後回しになりがちです。
この記事は、ホテルの業務フローの見直しを扱います。どこから手をつけるのか、減らせる業務はどこに隠れているのか、そして空いた時間を何に使えばよいのかを、マーケティングを支援する立場から順に整理します。
ホテルの業務フローは、どこから見直せばよいですか?
最初にやるのは、業務を減らすことではなく、いまの業務を見えるようにすることです。見えていない業務は、減らすことも任せることもできません。忙しい施設ほど、業務が人の頭の中にしかなく、休みや退職のたびに引き継ぎで混乱が起きます。皆さまの施設では、1日と1か月の業務を、誰が何分かけているかまで説明できるでしょうか?
まず、1日と1か月の業務を書き出します
見直しの最初の作業は、業務の書き出しです。チェックインとチェックアウト、部屋の割り当て、レジ締め、清掃との連絡、の料金や在庫の更新、口コミへの返信、月次のレポート作成。思いつくものを、担当者と、かかっている時間と一緒に並べます。毎日の業務と、週や月に1回の業務は分けて書きます。時間は正確でなくてかまいません。おおよその分数が分かれば、どこに時間が偏っているかは見えてきます。
この作業は、担当者だけでなく、現場のメンバーと一緒に行うのがおすすめです。本当に必要な業務なのかを話し合うことで、業務の効率化だけでなく、何を大事にしている施設なのかという意識のすり合わせにもなります。書き出してみると、同じ作業を2人が別々にしていた、誰も見ていないレポートを毎月作っていた、といったことが見つかります。
書き出した一覧は、一度作って終わりではありません。システムを入れ替えたときや、担当者が替わったときに見直すと、業務が知らないうちに増えていくのを防げます。
業務を、顧客に届くものと届かないものに分けます
書き出した業務は、2つに分けます。顧客に直接届く業務と、届かない業務です。チェックインの対応や客室の準備、問い合わせへの返事、口コミへの返信は、顧客が直接目にする業務です。一方で、数字の転記や、複数の画面を行き来する確認作業は、どれだけ丁寧に行っても顧客には見えません。
私たちは、顧客が目にするのは実行の結果だけだと考えています。どんなに良い方針を立てても、顧客に伝わるのは、接客や客室、予約の画面といった実行されたものです。だからこそ、顧客に届かない業務に使っている時間を減らし、届く業務に回すことが、満足度にも売上にもつながります。見直しの対象にするのは、まず届かない業務のほうです。届かない業務は、やめる、まとめる、システムに任せる、外に任せる、のどれかで減らせないかを1つずつ検討します。顧客に届く業務は、減らすより質を上げる対象として残します。
減らせる業務は、どこに隠れていますか?
届かない業務の中で、減らしやすいものには共通点があります。どちらも、現場の努力ではなく、仕組みを変えることで減らせるものです。仕組みを変えれば、担当者が替わっても減った状態が続きます。システムの機能を使い切れていないところと、同じ数字を何度も扱っているところです。皆さまの施設では、毎日の作業のうち、手で写している数字がどれくらいあるでしょうか?
システムの機能を、使い切れていないことがあります
ホテルでは、宿泊管理の、複数のの在庫と料金をまとめて扱う、公式サイトの予約エンジンなど、いくつものシステムを使っています。それぞれのシステムには、在庫の連動や売上の集計、レポートの出力といった機能が付いていますが、導入したときの使い方のまま、一部しか使っていないことがよくあります。
たとえば、ごとに管理画面を開いて在庫を直しているなら、の連動の設定を見直す余地があります。との連携が切れていると、予約を手で写す作業と、ダブルブッキングの心配が同時に生まれます。連携まで含めた管理の考え方は、PMS連携まで含めたダブルブッキング防止の記事で扱っています。機能を理解するだけでも、本来やらなくてよい業務が浮かび上がります。システムの提供会社のサポートに、いまの使い方を見てもらうのも手早い方法です。
同じ数字を、何度も手で写していませんか
もう1つの隠れ場所は、数字の転記です。月次のレポートを作るために、から売上を、各の管理画面から予約数を、公式サイトの解析ツールから訪問数を、それぞれ手で表に写している施設は少なくありません。毎月同じ作業なのに、毎回数時間かかっているなら、見直しの候補です。手で写すたびに、写し間違いが入る余地も生まれます。
まず確かめたいのは、そのレポートが誰の何の判断に使われているかです。誰も見ていない項目があれば、作るのをやめます。使われている項目は、どのシステムから取れるかを整理し、出力の形をそろえるだけで、手作業は大きく減ります。レポートの項目を減らすと、見る側も何を判断すればよいかが分かりやすくなります。ホテルのデータがどこにあるかは、ホテルマーケティングで使うデータの記事で整理しています。
次の図は、業務を書き出してから、減らす業務と残す業務を分けるまでの流れを示したものです。

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業務を減らしたあと、何に時間を使えばよいですか?
業務の見直しは、減らして終わりではありません。空いた時間を何に使うかを決めて初めて、将来の運営につながります。決めておかないと、空いた時間はいつの間にか別の雑務で埋まってしまいます。皆さまの施設では、時間ができたら最初に何をするか、決まっているでしょうか?
外に払っている費用も、同じように見直します
業務の時間と並んで見直したいのが、外に払っている費用です。の広告、Web広告、旅行会社や代理店との契約など、毎月なんとなく続いている支出はないでしょうか。業務の書き出しと同じように、何に、いくら、何のために払っているのかを1枚の表に並べます。
判断の物差しは、その費用でどれだけの予約や売上が増えたかです。費用を予約1件あたりに直すと、広告、、代理店を同じ物差しで比べられます。効果を測れていない支出は、まず測れる形にし、それでも効果が見えなければ止めます。の広告の考え方は、OTA有料広告の目的を扱った記事で整理しています。外に任せる必要があるかを考え直すことは、費用の見直しであると同時に、施設の中に何を残すかを決める作業でもあります。
空いた時間は、選ばれる理由づくりに回します
空いた時間の使い道として私たちがおすすめしているのは、選ばれる理由をつくる仕事です。プランの見せ方を整える、写真を入れ替える、口コミに丁寧に返す、公式サイトで予約したくなる情報を足す。どれも顧客に直接届く仕事で、価格を下げずに予約を増やす手段です。単価を下げる施策は最後の手段だと私たちは考えているので、まずはこうした仕事から時間を割り当てます。週に1時間でも、決まった時間を確保するほうが、手が空いたらやるという決め方より続きます。
将来の運営を考えると、施設の外に向けた取り組みも欠かせません。どういう施設なのかが伝わり、予約したいと思ってもらえる状態をつくることが、価格の比較から抜け出す土台になります。ホテルの業界が抱える課題は、100社のヒアリングを基にした業界の課題の記事でも整理しています。
ここは率直にお伝えします
私たちはマーケティングの支援を専門にしており、清掃やフロントのオペレーションそのものを設計する立場ではありません。この記事でお伝えしているのは、売上を考える時間をどう生み出すかという観点からの見直し方です。人員の配置や労務の判断が必要な場面では、その分野の専門家にも相談してください。
見直しの効果も、何時間減ったかだけでなく、その時間で何ができたかで確かめます。また、業務を減らすこと自体を目的にすると、顧客に届く業務まで削ってしまうことがあります。減らすのは届かない業務から、という順番を守ることをおすすめします。業務の見直しは一度で終わらせず、四半期に一度など時期を決めて繰り返すと、増えた業務に早く気づけます。

まとめ
ホテルの業務フローの見直しは、いまの業務を書き出すところから始めます。書き出した業務を、顧客に届くものと届かないものに分け、届かない業務から減らします。減らしやすいのは、システムの機能を使い切れていないところと、同じ数字を何度も手で写しているところです。
業務を減らしたら、外に払っている費用も同じ表で見直し、空いた時間を選ばれる理由づくりに回します。業務を減らすことを目的にせず、売上を考える時間を生み出す手段として見直す。この順番で進めれば、日々の業務と将来の運営方針をつなげられます。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
施策は思いついても「どの順で・いつやるか」で止まっていませんか。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
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