「訪日旅行者が増えていると聞くのに、自社の予約にはあまり実感がない」。私たちmicadoはホテル・旅館のマーケティングを支援しているので、こうした声をよくいただきます。日本の観光産業は全体として伸びていますが、その伸びがどの施設にも同じように届くわけではありません。
この記事は、日本の観光産業がいまどう動いているかを、公的な統計で確かめたうえで、これから選ばれるホテル・旅館の共通点と、施設が手をつける順番を扱います。数字にはすべて出典と時点を添えているので、自社の予約の数字と並べながら読んでみてください。
日本の観光産業は、いまどう動いていますか?
最初に、観光産業の全体の動きを公的な統計で確かめます。印象やニュースの見出しだけで判断すると、自社に必要な手を見誤ることがあります。皆さまの施設では、全国の動きと自社の予約の動きを、並べて見たことがあるでしょうか?
訪日旅行者は、過去最高を更新しています
日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計によると、2025年の訪日外客数は推計値で約4,268万人となり、初めて4,000万人を超えました。2024年の約3,687万人を上回り、過去最高を更新しています。
消費の面でも伸びています。観光庁の調査では、2024年の訪日外国人旅行消費額は約8.1兆円で、こちらも過去最高でした。訪日旅行者の数と、1人あたりの支出の両方が伸びたことが、消費額を押し上げています。宿泊は旅行の支出の中でも大きな割合を占めるので、ホテル・旅館はこの伸びをもっとも直接受け止める業種の1つです。
こうした数字は、日本の観光資源が世界から評価されていることを示しています。ホテル・旅館にとっては、国内の旅行者に加えて、海外からの旅行者という大きな市場が広がっていることになります。滞在日数が長い旅行者も多く、連泊の需要を取り込める施設にとっては特に大きな機会です。なお、ここに挙げた数字は、それぞれの公表の時点のものです。最新の値は、JNTOと観光庁の公表資料で確かめてください。
需要が増えても、すべての施設が潤うわけではありません
一方で、全国の数字が伸びても、その伸びは地域や時期によって大きく偏ります。訪日旅行者は、大都市や知名度の高い観光地、特定の季節に集まりやすい傾向があります。同じ県の中でも、旅行者が訪れる地域とそうでない地域で、まったく違う状況になることがあります。平日と週末、繁忙期と閑散期の差が、以前より大きくなったと感じている施設も少なくありません。
また、需要が増える地域には、新しい施設の開業も集まります。旅行者が増えても、選べる施設も増えれば、1軒あたりの予約が増えるとは限りません。むしろ比べられる相手が増え、選ばれる理由のない施設ほど、価格で競うことになりがちです。
つまり、観光産業の伸びは、施設にとって追い風であると同時に、選ばれる施設とそうでない施設の差を広げる流れでもあります。大切なのは、全国の数字ではなく、自社の顧客がどう動いているかです。全国の伸びをそのまま自社の計画に当てはめると、来ない需要を前提に人や在庫を準備してしまうことになります。
これから選ばれる施設には、どんな共通点がありますか?
需要の伸びを自社の予約につなげている施設には、いくつかの共通点があります。私たちが支援の中で見てきたのは、泊まる場所としてではなく旅の一部として自社を位置づけていることと、旅行者が調べる段階から情報を届けていることです。皆さまの施設は、旅行者にとって、旅のどの部分を担っているでしょうか?
泊まる場所ではなく、旅の過ごし方を提案しています
旅行者にとって、泊まることは旅の一部でしかありません。見る、食べる、体験するといった過ごし方の中に、宿泊があります。選ばれる施設は、客室の広さや設備だけでなく、その施設に泊まることで旅がどう良くなるのかを提案しています。
たとえば、周辺の観光地を回る順番、地元の人が通う飲食店、朝の散策に向いた道、雨の日の過ごし方などです。こうした情報は、その地域に毎日いる施設だからこそ、正確に届けられます。旅行の情報サイトには載らない、季節ごとの小さな変化を伝えられるのも施設の強みです。施設が旅の案内役になると、旅行者は宿泊先を、旅の計画の中心に置いて選ぶようになります。プラン名や説明文にも、客室の仕様だけでなく、その施設を拠点にした過ごし方を書くと、ほかの施設との違いが伝わります。
地域の事業者と組んで、自社だけでは用意できない体験を加える方法もあります。旅行の形の変化と、施設が取り入れられる動きは、〇〇ツーリズムのトレンドを扱う記事で整理しています。
調べる段階から、期待を裏切らない情報を届けています
旅行者は、出かける前にスマートフォンで多くの情報を調べます。選ばれる施設は、この調べる段階から、旅行者が楽しみになる情報を届けています。公式サイトやの掲載、SNSで、施設の過ごし方や地域の魅力が具体的に伝わっていることが、選ばれる最初の条件です。
ただし、調べる段階で期待を高めるほど、実際の滞在がその期待を下回ったときの落差も大きくなります。写真や説明で実際より良く見せると、予約は入っても、泊まったあとの評価に表れます。期待を高める情報と、期待を裏切らない滞在の両方がそろってはじめて、リピートや口コミにつながります。客室の広さや眺望、駅からの距離のように、到着してから違いに気づく項目ほど、正確に書いておくことが大切です。
旅の前、旅の途中、旅のあとまで、旅行者との接点を持ち続ける施設は、次の旅行でも思い出してもらえます。選ばれる理由を作り、それを体験で伝える考え方は、ホテルブランディングを扱う記事で扱っています。

その課題、”自社の数字”を見れば打ち手が見えてきます。同じエリアの施設はもう動き始めています——気づかないうちの取りこぼしを止めませんか? 予約データを入れるだけで改善点が見えるLevitt Lite、その場で相談できるmicado AI、記事もツールもすべて無料。▶ **mintに無料で会員登録する**
ホテル・旅館は、何から手をつければよいですか?
観光産業の流れと、選ばれる施設の共通点が分かったら、最後は自社で何から始めるかです。全国の伸びに合わせて慌てて手を広げるより、自社の顧客の実態を確かめるところから始めるほうが、限られた人と予算を無駄にしません。皆さまの施設の予約は、国内とで、どのくらいの割合に分かれているでしょうか?
自社の顧客が、国内と海外でどう分かれているかを確かめます
最初に、予約データから自社の顧客の実態を確かめます。国内と海外の割合、海外ならどの国や地域から来ているのか、予約から宿泊までの日数、泊数、どの媒体から予約しているのかを見ます。全国の統計では訪日旅行者が増えていても、自社の顧客の大半が国内の旅行者であれば、打つべき手は変わります。数字は1年分だけでなく、前年と並べて見ると、自社の顧客の変化が分かります。
海外からの予約を増やしたい場合は、海外の旅行者が使う媒体に、正確な情報を載せるところから始めます。海外の大手の始め方は、Booking.comで予約を集める方法の記事で扱っています。国内と海外で料金の考え方を分ける方法は、ホテルの二重価格戦略の記事が参考になります。
国内の旅行者が中心の施設は、無理に海外に手を広げるより、国内の顧客に選ばれる理由を磨くほうが成果につながることもあります。どちらに力を注ぐかは、自社の数字で決めます。月に一度、国内と海外の予約の割合と単価の推移を並べて見るだけでも、次に力を注ぐ先が見えてきます。
ここは率直にお伝えします
この記事で挙げた統計は、全国の数字です。自社の地域や客層で同じ伸びがあるとは限りません。私たちも、観光産業の先行きを言い当てることはできません。感染症の流行のように、数年単位で旅行の需要が大きく落ち込む出来事も、実際に起きています。為替や国際情勢、航空便の数といった、施設の外の要因で需要は大きく動きます。
だからこそ、予測に頼るより、自社の予約の動きを数字で見て、変化に早く気づける状態を作っておくことが大切です。需要が伸びている時期ほど、値下げをしなくても予約が入るので、料金や見せ方を見直す余裕があります。
そして、需要が鈍ったときにも、単価を下げるのは最後の手段にしてください。過ごし方の提案や情報の届け方といった、価格以外の選ばれる理由を持つ施設ほど、需要の波に左右されにくくなります。需要が伸びている今こそ、その理由を作る時間を確保できる時期です。

まとめ
日本の観光産業は、JNTOの推計で2025年の訪日外客数が約4,268万人と過去最高を更新し、観光庁の調査では2024年の訪日外国人旅行消費額も約8.1兆円と伸びています。ただし、その伸びは地域や時期に偏り、新しい施設の開業も増えるので、すべての施設が潤うわけではありません。
これから選ばれるのは、泊まる場所ではなく旅の過ごし方を提案し、調べる段階から期待を裏切らない情報を届ける施設です。何から始めるかは、全国の数字ではなく、自社の顧客が国内と海外でどう分かれているかを予約データで確かめてから決めます。単価を下げるのは最後の手段にし、価格以外の選ばれる理由を磨いていきます。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
施策は思いついても「どの順で・いつやるか」で止まっていませんか。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
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