エリアの相場が上がっている。競合も上げている。だから自社も上げた。ところが直前になっても埋まらず、慌てて下げた。大型イベントを控えた地域で、この経緯を聞くことがあります。
判断そのものは間違っていません。相場が上がっているときに据え置けば、値上げの機会を取り逃します。問題は、相場が上がった理由を確かめないまま追随したことにあります。値段が上がる理由には「需要が増えた」と「供給が減った」の2つがあり、どちらなのかで打つ手はまったく違います。
この記事では、上がった市況の原因を需要と供給に判別する順序を扱います。判別に使う2つの数字と、供給減だと分かったときの打ち手、そして反動期への備えまで整理します。読み終えたとき、次にエリアの相場が動いたときに何から確かめればいいかが決まっている状態になります。
相場が上がる理由は、ひとつではない
市況の数字は、上がったという事実しか教えてくれません。その裏側で何が起きているかは、分けて考える必要があります。
需要が増えたのか、供給が減ったのか
価格は需要と供給の関係で決まります。当たり前の話ですが、実務ではこの当たり前が効きます。
需要が増えて価格が上がった場合、その日に泊まりたい人の総数が増えています。だから価格を上げても、上げた水準で買う人が残ります。稼働と単価を両方伸ばせる局面です。
一方、供給が減って価格が上がった場合、泊まりたい人の数は変わっていません。売られている部屋が減ったために、残った部屋の平均価格が押し上げられているだけです。このとき自社が相場に合わせて値上げすると、増えていない需要に対して高い値段を提示することになります。エリア平均は高くても、自社が選ばれる保証はありません。
表面に出てくる数字は、どちらの場合も「平均客室料金の上昇」です。だから数字だけを見て追随すると、後者の場合に売れ残ります。
名古屋のアジア大会で起きたこと
この構造がはっきり出た例があります。
調査会社Lighthouseの集計によると、アジア大会が開催された名古屋では、9月21日の週の平均客室料金が年間平均の2.2倍、率にして123%高い水準まで上昇しました(Hospitality Net、2026年9月11日)。日本全体の同時期の料金が前年比マイナス4%だったのに対し、名古屋はプラス2%と逆行しています。
ところが同じ集計で、開会式の夜の需要は前年比プラス1%にとどまっていました。つまり泊まりたい人はほとんど増えていません。料金を押し上げた主因は、選手・役員向けに客室が押さえられたことによる供給の減少だと整理されています。
なお、この数値は掲載料金をもとにした集計です。実際に成約した価格とはずれる可能性があります。表示上の相場が上がっていても、その値段で売れたかどうかは別の話だという点は、数字を読むときの前提として押さえておきます。
読み違えると、反動期に売れ残る
供給減を需要増と読み違えると、損失は2段階で出ます。
1段階目がイベント期間中です。増えていない需要に対して高値を出すため、直前まで残室を抱えます。そして直前に慌てて下げることになり、高く売れたはずの部屋も安く出すことになります。上げたことより、下げ方が計画されていなかったことが損失を生みます。
2段階目が、イベント後の反動期です。押さえられていた在庫が市場に戻ると、供給は一気に増えます。一方で需要はイベント前の水準に戻ります。このとき料金設定をイベント期のままにしていると、まったく動きません。
判別の目的は、値上げするかどうかを決めることではありません。いつまで上げ、いつ戻すかを先に決めるためです。
判別には、2つの数字を同時に見る
では、どうやって判別するか。必要な数字は2つだけです。ただし片方だけでは決まりません。
自社の予約ペースだけでは決まらない
1つ目が、自社の予約ペースです。
対象日について、今日時点で何室売れているか。それを前年の同じタイミングや、通常日の同じタイミングと比べます。ペースが速ければ需要が強い兆候です。
ただしこれだけでは判定できません。自社のペースが速い理由は、市場全体の需要が強いからかもしれませんし、自社だけが相対的に安いからかもしれません。逆にペースが遅い場合も、需要が弱いのか、自社の価格が高すぎるのかを区別できません。1つの数字では、自社の問題と市場の問題が混ざります。
支援の現場では、日別の残室、直近1週の増減、キャンセル件数を並べて、上げる日と据え置く日を週次で改定しています。ペースは単独の数字ではなく、動きとして見ます。
競合の残室を合わせて初めて判定できる
2つ目が、競合の価格と残室です。
段階的なの設計では、予約ペースと同時に競合の価格と残室を監視し、両方が動いて初めて「市場全体の需要が強い」と判定する、という手順を取ります。
判定は次のように分かれます。自社のペースが速く、競合も残室を減らしているなら、需要が増えています。強気に上げてよい局面です。自社のペースは普通なのに、競合の残室だけが急に減っているなら、供給が絞られている可能性があります。相場は上がっていても、買い手の総数は増えていません。
逆に、競合が既に値上げしているのに自社が据え置いている場合は、値上げ機会の取り逃しです。この確認軸も、競合の価格を見ていなければ持てません。
つまり必要なのは、自社の動きと市場の動きを並べることです。片方では、上がった相場の意味が読めません。
判定は「上げるか」ではなく「いつ戻すか」まで含める
判定ができたら、そこで終わりにしません。
需要増だと判定できたなら、90日前・60日前・30日前という段階で引き上げるシナリオを組みます。一度に上げるのではなく、予約ペースを見ながら段階的に上げる形です。をトリガーにする運用、たとえば残室50%で価格を上げ、残室20%でさらに上げるといったルールを仕組みとして持っておくと、属人的な判断を減らせます。
供給減だと判定したなら、値上げの幅は抑え、代わりに次の章で扱う打ち手に切り替えます。そしてどちらの場合も、イベント後の反動期にいつ戻すかを同じタイミングで決めます。上げるときに戻す日を決めておかないと、戻すタイミングは必ず遅れます。

図の順番どおりに見ます。自社だけ、競合だけでは、上がった理由は判別できません。
その課題、”自社の数字”を見れば打ち手が見えてきます。同じエリアの施設はもう動き始めています——気づかないうちの取りこぼしを止めませんか? 予約データを入れるだけで改善点が見えるLevitt Lite、その場で相談できるmicado AI、記事もツールもすべて無料。▶ mintに無料で会員登録する
供給減だと分かったら、何をするか
供給減による高値だと判定したとき、やるべきは「上げない」ことではありません。増えていない需要から、確実に取り切る設計に切り替えることです。
期間の前後へ需要を分散させる
1つ目が、日程の分散です。
イベント当日に需要が集中している場合でも、前泊と後泊の余地は残っていることが多くあります。遠方から来る人は前日に入りますし、翌日に観光してから帰る人もいます。当日だけを高く設定して売れ残らせるより、前後の日程を含めた連泊として売るほうが、総額では上回ることがあります。
この打ち手は、当日単独の単価を守りながら泊数を伸ばせる点が優れています。値下げではないので、(平均客室単価)への影響も限定的です。
設計の手順も難しくありません。イベント当日を中心に前後1日ずつを含めた2泊3日の枠を作り、その枠で予約した場合の総額を提示します。当日1泊の料金は高いまま据え置いて構いません。比較の対象が「高い1泊」ではなく「まとまった滞在」に変わるため、単価の高さが選ばれない理由になりにくくなります。
最低宿泊日数とキャンセル規定で守る
2つ目が、条件による防御です。
高需要日に最低宿泊日数を設定すると、当日1泊だけの短い直前予約を制限できます。これは前後への分散と同じ効果を、条件の側から作る方法です。ただし需要が実際には増えていない局面では、条件を厳しくしすぎると予約自体が入りません。設定は段階的に、予約ペースを見ながら緩める余地を残しておきます。
キャンセル規定も同様です。イベント日は直前キャンセルが起きやすく、しかも埋め直す時間が残りません。直前キャンセルの多い施設では、宿泊3日前から宿泊料金の50%といった形で、通常より少し厳しく設定するとキャンセルの抑止に働きます。事前決済の条件を組み合わせる方法もあります。
条件で守るという発想は、価格で勝負しない局面で効きます。
段階的に上げ、反動期の戻し方を決めておく
3つ目が、反動期への備えです。
イベントが終わると、押さえられていた在庫が市場に戻ります。供給が増え、需要は平常に戻る。この局面で料金をイベント期のままにしていると、予約は動きません。
だから引き上げのシナリオを組むときに、戻すシナリオも同時に作ります。イベント終了の何日後からどの水準に戻すか。戻した後の日程で、値下げが効く日と効かない日をどう分けるか。値下げが効かない日の見極め方は値下げが効かない日の見極め方|ホテルの料金判断の順序で扱っています。
また、高稼働の日は残室を割引しないこと自体が実質的な値上げになります。逆に需要期なのに予約がゼロの日は、値下げではなく露出と送客で埋める判断に分けます。同じ「売れていない日」でも打ち手が違うため、日別に判断を分ける運用が必要です。段階的な引き上げの設計そのものは【満室なのに儲からない?】高需要のタイミングを逃さないイベント・連休の段階的プライシング戦略で扱っています。

図の3つは併用できます。ただし条件を厳しくする打ち手は、予約ペースを見ながら緩める余地を残しておきます。
まとめ
この記事でお伝えしたかったことは3つです。
・相場が上がる理由には需要増と供給減の2つがあり、表面に出る数字はどちらも「平均客室料金の上昇」で同じ。名古屋のアジア大会では料金が年間平均の2.2倍になった一方、需要は前年比プラス1%にとどまっていた
・判別には自社の予約ペースと競合の価格・残室を同時に見る。両方が動いていれば需要増、競合の残室だけが減っていれば供給減の可能性が高い
・供給減だと判定したら、値上げ幅を抑えて前後日程への分散・最低宿泊日数・キャンセル規定で取り切る設計に切り替える。そして上げるときに、戻す日を同時に決めておく
次にエリアの相場が上がっていることに気づいたら、自社の予約ペースと競合の残室を並べてみてください。競合の残室だけが減っているなら、その高値は需要ではなく供給が作ったものです。同じ値上げでも、そのとき守るべきものは単価ではなく、取り切る設計のほうになります。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
比較はしても「自社にとっての正解」は数字を見ないと決まりません。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
mintに無料会員登録すると、ホテルマーケティングに必要な判断材料を無料で利用できます。
・予約データから、・・予約を分析 ・売上の取りこぼしや、次に取るべき打ち手を可視化 ・運用、自社予約、広告、、SNSなどの悩みをAIに相談 ・楽天トラベルの実績を分析し、改善ポイントを確認 ・最大5施設まで、競合施設の価格動向もチェック可能
すべて無料で公開しているのは、micadoが「全国のホテルマーケティングを100%にする」ことを掲げているからです。
各施設の現場データを研究に活かし、そこで得た知見をmintを通じて業界へ還元する——この循環を全国に広げるために、ノウハウもツールも無料で開放しています。
勘ではなく”数字”で動ける状態へ。▶ mintに無料で会員登録する