「データを活用しましょう、とよく言われるけれど、そもそも何のデータを見ればいいのか分からない」。私たちmicadoはホテル・旅館のマーケティングを支援していますが、最初の打ち合わせでこの声をよく聞きます。分析の手法より前に、使うデータの種類と、それがどこにあるのかが整理されていないことが多いのです。
この記事は、ホテルマーケティングで使うデータの種類を扱います。予約データで答えられる問いと答えられない問い、データの置き場所と集めるときの前提、そして集めたデータを判断につなげる入口までを、順に整理します。分析の進め方そのものは、別の記事に譲ります。
ホテルマーケティングでは、どんなデータを使いますか?
最初に、データを「何に答えるためのものか」で分けます。種類の名前から覚えるより、知りたい問いから逆にたどるほうが、必要なデータを取りこぼしません。問いが決まっていないままデータを集めると、集めること自体が目的になり、使われない表だけが増えていきます。皆さまの施設では、手元のデータでどの問いに答えられるか、整理できているでしょうか?
予約データから、5つの問いに答えられます
私たちは、予約と宿泊のデータを5つの問いに分けて見ています。1つ目は誰が泊まっているかで、都道府県や国・地域、人数の構成です。2つ目はいつ予約され、いつ泊まるかで、月別の推移、曜日、予約から宿泊までの日数であるです。3つ目はどの媒体経由かで、ごとや公式サイトの予約数と売上の構成です。4つ目はいくらで売れているかで、平均客室単価やプランごとの単価です。5つ目はどれくらい売れているかで、や客室タイプ別の埋まり方、プランごとの販売数です。
この5つは、どれも予約の一覧から作れます。特別なツールがなくても、予約の一覧に宿泊日、予約日、媒体、人数、金額、客室タイプ、プランの列があれば、ほとんどの問いに答えられます。逆に言えば、これらの列が欠けていると、どれだけ眺めても答えは出ません。データを集める最初の作業は、この列がそろっているかを確かめることです。媒体の列が「」とだけ記録されているなど、粒度が粗い場合も、ここで気づけます。
予約データだけでは、なぜ選ばれたかは見えません
一方で、予約データが答えられない問いがあります。それは、なぜこの施設が選ばれたのか、何を解決したくて泊まったのかという問いです。私たちは、顧客を理解するときに「その人は誰か」ではなく「その人が解決したいことは何か」を問うようにしています。年齢や地域といった属性は、その入口にすぎません。
この問いに答えるのは、言葉で残るデータです。口コミの本文、問い合わせやメールの内容、フロントで聞いた声、アンケートの自由記述などです。口コミは媒体ごとに書く人の傾向も違うので、どの媒体の声かも一緒に残しておきます。たとえば、ファミリーの予約が多いと予約データで分かっても、選ばれた理由が広い客室なのか、子ども向けの食事なのかは、口コミを読まないと分かりません。口コミを分析する方法は、口コミ分析の方法を扱った記事で詳しく扱っています。数字のデータと言葉のデータを組み合わせて、初めて打ち手が具体的になります。
そのデータは、どこにあって、どう集めますか?
使うデータの種類が分かったら、次はそれがどこにあるかです。ホテルのデータは1か所にまとまっておらず、システムごとに分かれて置かれています。どこに何があるかを知っているだけで、集める手間は大きく減ります。皆さまは、自社のデータがどのシステムに何があるか、一覧で把握できているでしょうか?
置き場所は、システムごとに分かれています
予約と宿泊のデータは、主に3つの場所にあります。1つ目は宿泊管理のシステムであるで、実際に泊まった記録や売上が残ります。2つ目はで、複数のと公式サイトの予約を集めて在庫を連動させているので、媒体ごとの予約の一覧を出しやすい場所です。3つ目は各の管理画面で、その媒体の中での閲覧数や転換率、競合との比較など、でしか取れないデータがあります。楽天トラベルの管理画面のデータの読み方は、楽天トラベルの宿カルテの記事で扱っています。
公式サイトについては、アクセス解析のツールに、どこから訪問があり、どのページで離脱したかが残ります。予約エンジンの予約データと組み合わせると、訪問から予約までのどこで取りこぼしているかが分かります。期間を比べて変化を読む方法は、GA4で期間比較を行う記事で扱っています。言葉のデータは、ごとの口コミ、メールの受信箱、フロントの日報など、さらに散らばっています。
集める前に、期間と前提をそろえます
データを集めるときに見落とされやすいのが、前提をそろえることです。どの期間のデータか、施設の種類や客室数、価格帯はどうか、どの媒体と契約しているか、目標の売上やはいくらか、前回から何を変えたか。これらが分からないまま数字を並べても、良いのか悪いのかを判断できません。
特に期間は、季節やイベントの影響を大きく受けます。今月の数字を先月と比べるのか、前の年の同じ月と比べるのかで、読み方は変わります。連休の並びや周辺のイベントも、比べる前に書き添えておきます。媒体ごとにデータの締め方が違うこともあるので、最初に「何月何日から何月何日の宿泊分」とそろえてから集めます。
もう1つは、同じ言葉の定義をそろえることです。売上を税込みで見るのか税抜きで見るのか、キャンセルを含めるのか、の手数料を引く前なのか後なのか。システムごとに初期の設定が違うので、ここをそろえないと、媒体の比較がずれます。
次の図は、使うデータの種類と、それが置かれている場所をまとめたものです。

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集めたデータを、どう判断につなげればよいですか?
データがそろったら、それを判断に使います。ここで私たちが決まりにしているのは、データから何が言えるかを、施策の前に言葉にすることです。分析の細かな手順は別の記事に譲り、ここでは判断の入口だけを整理します。入口で迷わなければ、分析の手順も選びやすくなります。皆さまの施設では、集めたデータを見たあとに、次に何をするかが決まっているでしょうか?
目標との差で、課題と伸びしろに分けます
集めたデータは、最初は評価をせずに事実として並べます。そのうえで、目標との差を見て2つに分けます。目標に届いておらず、今のやり方では解決しないものは課題です。止める、直す、変えるという打ち手につながります。まだ試していない、強化できる余地があるものは伸びしろです。始める、増やすという打ち手につながります。
たとえば、直前の予約ほど単価が下がっているなら、価格の決め方の課題です。高単価の媒体からの予約が少ないなら、その媒体の掲載を整える伸びしろです。特定の客室タイプだけ稼働が低いなら、その客室の強みを生かしたプランを作る伸びしろかもしれません。
分けたあとは、それぞれの打ち手について、効果の大きさと実施のしやすさを並べます。効果が大きく、すぐにできるものから手をつけ、時間のかかるものは中長期の計画に回します。このように、データを課題と伸びしろに分けておくと、施策の優先順位をつけやすくなります。データを使った分析の進め方は、データ分析でホテルの売上に差がつく記事で扱っています。
ここは率直にお伝えします
データは多いほど良い、というわけではありません。顧客データを一元管理する仕組みを入れる話もよく聞きますが、予約の一覧の列がそろっていない段階で大きな仕組みを入れても、使われないまま終わることが多いと私たちは見ています。まずは予約の一覧と口コミという、すでに手元にあるデータで答えられる問いから始めるのが確実です。
もう1つ、データは答えを教えてくれるものではありません。データが示すのは事実で、そこから何を読むかは人が決めます。私たちが提案をするときも、なぜその施策なのかをデータの根拠とセットで伝えることを決まりにしています。根拠のない施策を提案しないための道具として、データを使うということです。施設の中で施策を決めるときも、この施策はどのデータから出てきたのかを一言添えるだけで、議論が感覚の言い合いになりにくくなります。

まとめ
ホテルマーケティングで使うデータは、知りたい問いから整理します。予約データからは、誰が、いつ、どの媒体で、いくらで、どれくらい泊まっているかという5つの問いに答えられます。なぜ選ばれたのかは予約データでは見えないので、口コミや問い合わせなど言葉のデータを組み合わせます。
データは、、の管理画面、公式サイトのアクセス解析に分かれて置かれています。集める前に期間と定義をそろえ、集めたら目標との差で課題と伸びしろに分ける。この順番で進めれば、手元にあるデータから次の打ち手を決められます。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
施策は思いついても「どの順で・いつやるか」で止まっていませんか。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
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