「ホテル業界はこれからどうなるのか」「近くの施設が始めたことを、うちも真似したほうがよいのか」。私たちmicadoはホテル・旅館のマーケティングと運用を支援していますが、こうした相談を受けることがよくあります。業界の今後を予測するニュースや記事は多くありますが、それを読んでも、自社が来月何を変えればよいのかまでは分かりません。
この記事では、業界の今後を当てることではなく、外部環境の変化を自社の判断に落とす手順を扱います。変化を影響する場所で分ける方法、今すぐ動くか様子を見るかを決める順番、変化に振り回されないために積み上げておくことを整理します。日本の観光産業の大きな流れは、日本の観光産業を扱った記事で整理しています。
外部環境の変化は、なぜ自社の判断につながりにくいのですか?
業界の変化を伝える情報は、全国や業界全体を主語にしています。一方で、施設が決めるのは、自社の料金、在庫、プラン、販促費です。この間をつなぐ作業をしないと、情報を読んでも判断は変わりません。皆さまの施設では、業界のニュースを読んだあと、それが自社のどの数字に関わるのかを確かめているでしょうか?
ニュースは、自社の数字に置き換えて初めて使えます
たとえば「訪日旅行者が増えている」という情報があっても、自社の予約に占める海外からの予約が少なければ、すぐに関わる話ではありません。反対に、海外からの予約が多い施設にとっては、どの国や地域から増えているのか、いつの時期に増えているのかまで確かめる価値があります。同じ情報でも、施設によって使い道が違います。
そこで私たちは、外の情報を読んだら、まず自社の数字に置き換えるようにしています。関わる顧客層が自社の売上の何割を占めているか、関わる媒体からの予約がどれくらいあるか、関わる時期にどれくらいの在庫があるかを確かめます。置き換えた結果、影響が小さいと分かれば、それ以上追わなくて構いません。置き換えるときに使うのは、媒体ごとの売上、顧客層ごとの売上、月ごとの在庫と予約の表です。この3つが毎月そろっていれば、外の情報を読むたびに数字を集め直す必要はありません。旅行動向の統計を自社の数字と並べて読む方法は、旅行動向の読み方を扱った記事で詳しく扱っています。
変化を、影響する場所で分けます
外部環境の変化は、施設のどこに影響するかで分けると扱いやすくなります。私たちは、需要、価格、露出、費用、人手の5つで分けています。需要は、旅行の目的や発地、時期の変化です。価格は、競合の料金や新しい施設の開業による料金の相場の変化です。露出は、の掲載の仕組みや検索、地図、SNSでの見つけられ方の変化です。
費用は、手数料、広告費、仕入れ、光熱費などの変化で、人手は採用や働き方の変化です。どの変化も、1つの場所だけに影響するとは限りません。新しい施設の開業は、価格と露出の両方に関わります。そのときは、影響が大きいほうから確かめます。どこに影響するかが分かれば、確かめる数字と、動かす打ち手が決まります。露出の変化なら、閲覧数や掲載順位を確かめ、掲載情報や広告を見直します。費用の変化なら、媒体ごとの実質の負担を確かめ、在庫や販促費の配分を見直します。媒体ごとの勢いの変化と予算の配分は、媒体の勢力図を扱った記事で扱っています。

図のように、変化を影響する場所で分けると、確かめる数字と動かす打ち手が決まります。
変化を見つけたら、どの順で判断しますか?
影響する場所が分かったら、次は動くかどうかの判断です。すべての変化にすぐ反応していると、打ち手が増え、どれが効いたのか分からなくなります。反対に、様子を見すぎると、競合に先を越されます。判断の順番を決めておけば、変化のたびに議論を一からやり直さずに済みます。皆さまの施設では、外の変化に対して、すぐ動くものと様子を見るものを分ける基準があるでしょうか?
影響の大きさと、続く期間を見積もります
最初に、影響の大きさと、続く期間を見積もります。影響の大きさは、関わる顧客層や媒体が、自社の売上のどれくらいを占めるかで考えます。続く期間は、一時的な変化なのか、しばらく続く変化なのかです。一度きりの催しの中止は一時的な変化で、媒体の掲載の仕組みの変更や、近くに大きな施設が開業することは、しばらく続く変化です。
影響が大きく、しばらく続く変化は、早めに打ち手を決めます。影響が大きくても一時的な変化は、その期間の料金と在庫を調整し、期間が終わったら元に戻します。影響が小さい変化は、記録だけしておき、次の月の振り返りで数字に表れていないかを確かめます。見積もりは正確でなくて構いません。大きいか小さいか、短いか長いかの2つに分けるだけでも、動く順番が決まります。見積もった内容は、根拠と一緒に記録しておきます。後から見積もりが外れたと分かったときに、どこで読み違えたのかを確かめられます。
戻せる打ち手から試し、結果で判断します
動くと決めたら、元に戻せる打ち手から試します。料金や在庫の調整、プランの名前や説明の書き換え、の販促への参加は、結果が悪ければ戻せます。一方で、客室の改装や、長い期間の契約、媒体からの撤退は、戻すのに時間と費用がかかります。変化の見通しが立たない段階では、戻せる打ち手で反応を確かめ、変化が続くと分かってから、戻しにくい打ち手を考えます。試した結果は、変化の前と同じ数字で比べます。比べる数字を試す前に決めておかないと、都合のよい数字だけを見てしまいます。
近くの施設が新しいことを始めたときも、同じ考え方が使えます。真似をする前に、その施設と自社で、顧客層や価格帯、立地の条件が同じかを確かめます。条件が違えば、同じ打ち手でも結果は変わります。試すなら、期間と見る数字を決め、小さく始めます。他の施設の事例を自社の判断に使う読み方は、ホテルマーケティングの事例の読み方を扱った記事で整理しています。
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変化に振り回されないために、何を積み上げますか?
外の変化は、これからも続きます。そのたびに一から考えていては、判断が遅れ、担当者の負担も大きくなります。変化に振り回されない施設は、変化が来る前から、判断の材料を積み上げています。皆さまの施設では、今年取り組んだことのうち、来年も効き続けるものはどれでしょうか?
短期の打ち手と、積み上げる打ち手を分けて持ちます
打ち手には、効果がすぐ出て、止めると消えるものと、効果が出るまで時間がかかり、積み上がっていくものがあります。料金の調整やの販促は前者で、公式サイトの情報、口コミ、過去の宿泊者との接点、施設を知ってもらうための発信は後者です。後者は、後から始めても、先に積み上げた施設に追いつくまで時間がかかります。
外の変化が大きいときほど、短期の打ち手に目が向きがちです。それでも、積み上げる打ち手を止めないことが、次の変化への備えになります。積み上げる打ち手は、量より続けることを優先します。月に数本の発信でも、毎月続けていれば、1年後には施設を知ってもらう入口が増えています。取り組みを始めるときは、目的を先に決めておきます。施設を知ってもらうための取り組みなのか、すでに知っている人の予約を増やすための取り組みなのかで、見る数字も、成果が出るまでの時間も違います。の成果が出るまでの時間軸の考え方は、直販の成果が出るまでの時間軸を扱った記事で扱っています。
ここは率直にお伝えします
私たちにも、業界の今後を正確に予測することはできません。だからこそ、予測に頼らず、変化が起きたときに自社の数字で確かめ、戻せる打ち手から動く、という手順を持っておくことをおすすめしています。手順があれば、予測が外れても、判断を早く修正できます。
また、正直に書くと、外の情報を集める時間が長くなるほど、自社の数字を見る時間が短くなりがちです。業界の情報は、月に一度、影響する場所で分けて記録する程度で十分です。記録するときは、出来事、影響する場所、見積もり、確かめる数字の4つを1行にまとめておくと、振り返るときに使いやすくなります。その分の時間を、自社の予約データを見ることに使うほうが、判断の質は上がります。需要が急に落ちたときの順番は需要が急に落ちたときの対応を扱った記事、平時の偏りの減らし方は需要の変動に強い販売の組み方を扱った記事で整理しています。

置き換える、見積もる、戻せる打ち手から試す。この順番で、外の変化を自社の判断に変えられます。
まとめ
ホテル業界の今後を当てることは、誰にもできません。施設にできるのは、外部環境の変化を、自社の判断に落とす手順を持つことです。まず、外の情報を自社の数字に置き換え、需要、価格、露出、費用、人手のどこに影響するかで分けます。
次に、影響の大きさと続く期間を見積もり、元に戻せる打ち手から試して結果で判断します。そして、短期の打ち手と積み上げる打ち手を分けて持ち、積み上げる打ち手を止めない。この手順があれば、変化のたびに慌てず、自社の数字で判断を続けられます。
読んで「なるほど」で終わらせていませんか?
施策は思いついても「どの順で・いつやるか」で止まっていませんか。いま売上を伸ばしている施設と、そうでない施設の差は、「どこで取りこぼしているか」に気づき、「いつ・何をすべきか」を数字で判断できているか。違いはそこだけです。
同じエリア・同じ規模の施設は、すでにデータを見ながら最適なタイミングで手を打ち始めています。一方で「分析する仕組みがない」「何から手をつければいいか分からない」と判断を後回しにしている間も、機会損失は静かに積み上がっていきます。
まずは”自社で実際に何が起きているか”を見るところから。それが、最適なタイミングで最適な一手を選べる施設への第一歩です。
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