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2025.05.16
「うちのホテルも、もっと多くのお客様に選ばれたい」「価格競争から抜け出して、独自の価値を認めてもらいたい」。多くのホテル経営者やマーケティング担当者の方が、そう願っているのではないでしょうか。その実現の鍵は、模倣困難な競争優位性を築く「ホテルブランディング」にあります。
しかし、ホテルのブランディングと聞くと、美しいロゴや洗練された内装、あるいは聞こえの良いコンセプトを掲げることだと捉えられがちです。それらはもちろん要素の一つですが、本質ではありません。本記事では、ホテルという「体験」そのものが商品となる特有のビジネスにおいて、顧客の記憶に深く刻まれ、長期的な信頼と愛着を育むための戦略的ブランディングとは何か、そしてそれをどのように構築していくのか、私たちmicadoが持つホテル業界での豊富な経験と知見を基に、具体的なステップとホテルならではの視点を交えて徹底解説します。
効果的なブランディング戦略を語る前に、ホテル業界で特に見受けられる「ブランディングの罠」と、私たちが考える「真のホテルブランド価値」について、認識を明確にしましょう。
現代においてSNSでの見栄えは重要ですが、客室や料理の「写真映え」だけを追求し、本質的な宿泊体験の質が伴わなければ、顧客は一過性の興味で終わってしまいます。リピートや真のファン化には繋がりません。これは、ホテルの持つ多面的な価値の一部しか見ていない落とし穴です。
OTA(Online Travel Agent)は重要な集客チャネルですが、そのプラットフォーム上での評価やランキングを上げることだけがブランディングの目的になっていませんか?手数料を支払い、価格競争に巻き込まれ、結果としてホテルの独自性や収益性が損なわれることも。OTAは活用しつつも、自社のブランドを主体的にコントロールする視点が不可欠です。
どんなに素晴らしいブランドコンセプトを掲げても、それを日々お客様と接するスタッフが理解・共感し、自身の行動で体現できなければ意味がありません。特にホテルは「人」がサービスの核です。清掃スタッフからフロント、レストラン、経営層に至るまで、ブランドへの想いが共有されていなければ、顧客に一貫したブランド体験を届けることはできません。
私たちmicadoが考える「真のホテルブランド価値」とは、単に美しい施設や洗練されたサービスを提供すること以上に、「そのホテルならではの忘れられない宿泊体験」と、それを通じて顧客の心に生まれる「特別な場所としての記憶と信頼」です。そして、その約束が、予約の瞬間からチェックアウト後の余韻に至るまで、全ての顧客接点で一貫して提供されること。これこそが、ホテルが築き上げるべき最も重要な無形資産なのです。
では、ホテルならではの「記憶に残る宿泊体験」を核としたブランド価値は、どのように構築していけばよいのでしょうか。私たちが重視する、戦略的なブランド構築のロードマップを6つのステップでご紹介します。ここには、ホテル特有の要素を色濃く反映させています。
まず、自ホテルの「DNA」、つまり変えてはならない独自の価値や個性を深く理解します。それは歴史的背景かもしれませんし、立地特性、建築デザイン、あるいは創業者の想いかもしれません。同時に、ターゲットとしたい顧客層のインサイト(深層心理)を徹底的に分析します。
PMSデータや過去のアンケート、オンラインレビューはもちろん、可能であれば直接インタビューも行い、「なぜお客様は当ホテルを選ぶのか(あるいは選ばないのか)」「何を期待し、何に感動するのか」を明らかにします。競合ホテルのブランド戦略や提供価値も、単に模倣するためではなく、自社の独自性を際立たせるために分析します。
分析結果に基づき、ホテルの「ブランドコア」、すなわち顧客にとっての「選ばれる理由」を明確に定義します。これは、ホテルが社会に存在する意義を示す「ミッション」、目指すべき姿である「ビジョン」、そして日々の行動指針となる「バリュー(価値観)」として言語化されます。
さらに、ホテルが顧客にどのような印象を与えたいかを「ブランドパーソナリティ」(例:温かく家庭的、革新的でスタイリッシュ、静かで落ち着いた隠れ家など)として設定します。このブランドコアは、ホテルに関わる全てのスタッフが共感し、誇りを持てるものでなければなりません。
全てのホテルには、独自の物語があります。その土地の歴史や文化とホテルの関わり、創業から現在に至るまでのストーリー、特別な空間やサービスが生まれた背景、スタッフの情熱など、これらの「ホテル物語(ブランドストーリー)」を発掘し、顧客の感情に訴えかける形で魅力的に語り伝えます。
この物語は、ウェブサイトやパンフレットだけでなく、館内の設え、スタッフの言葉、提供される料理など、様々な形で表現され、ブランドへの共感と記憶を深める力となります。
ブランドコアとストーリーを、顧客が「五感」で感じられる具体的な「ブランド体験(BX)」に落とし込みます。
予約サイトの使いやすさ、電話応対の心地よさ、エントランスの香り、ロビーの音楽、客室のデザインとアメニティの選定理由、レストランで提供される料理の味わいとプレゼンテーション、スタッフの立ち居振る舞いや言葉遣い、チェックアウト時の余韻、さらには滞在後のフォローアップメールに至るまで、全ての顧客接点で一貫した「そのホテルらしさ」を感じられるよう、細部にまでこだわって体験をデザインします。
創り上げたブランド価値を、効果的に社内外に伝えていくためのコミュニケーション戦略を策定します。社内に対しては(インターナルブランディング)、定期的な研修やミーティング、ブランドブックの活用などを通じて、全スタッフがブランドの体現者となるよう意識を高めます。
社外に対しては(エクスターナルブランディング)、ターゲット顧客に最も響くチャネル(公式サイト、SNS、PR、OTAの掲載情報、広告など)を選定し、一貫したメッセージとビジュアルでブランドイメージを訴求します。特に、OTA上での写真や紹介文もブランドの世界観を壊さないよう細心の注意を払う必要があります。
ブランディングは一度完成したら終わり、というものではありません。市場や顧客の変化に合わせて、ブランドを育て、進化させていくための「ブランドマネジメント」体制を構築します。顧客満足度調査、NPS(顧客推奨度)、オンラインレビュー、ブランド認知度調査などの指標を定期的に測定し、その結果を分析してブランド戦略の改善に繋げます。
RevPAR(販売可能な客室1室あたりの収益)やGOPPAR(総売上から運営経費を引いた利益)といった経営指標とブランド指標の関連性を把握し、ブランド投資の効果を検証することも重要です。
壮大なロードマップに感じるかもしれませんが、ブランディングは日々の小さなアクションの積み重ねでも磨かれます。ここでは、ホテルならではの視点で、明日からでも取り組める具体的なヒントをご紹介します。
まず、自ホテルの「個性」とは何か、スタッフ全員で改めて話し合ってみましょう。創業時のエピソード、設計に込められた想い、地域との意外な繋がりなど、埋もれていた魅力を再発見できるかもしれません。そして、その「個性」をスタッフ一人ひとりが自分の言葉で語れるようになることを目指します。お客様との会話の中で自然にそのストーリーが語られることは、何より強いブランドメッセージとなります。
オンラインレビューやアンケートはもちろん、フロントやレストランでの日常的な顧客との会話の中に、ブランド体験を向上させるヒントは無数に隠されています。お客様が何に喜び、何に少しでも不快感を覚えたのか、その具体的な「声」を丁寧に集め、部門を超えて共有し、改善に活かす仕組みを作りましょう。「感動の瞬間」を増やす努力と、「不満の兆候」を未然に防ぐ努力がブランドを強くします。
視覚(美しい空間、清潔さ)、聴覚(心地よいBGM、静寂)、嗅覚(ロビーや客室の香り)、味覚(美味しい食事やウェルカムドリンク)、触覚(リネンの肌触り、アメニティの質感)といった「五感」に訴えかける要素を意識的にデザインし、一貫性を持たせます。例えば、その土地ならではの香りをエントランスで演出し、客室のアメニティもその香りに統一する、といった細やかな配慮が、記憶に残るブランド体験を創り出します。
マニュアル通りのサービスだけでなく、お客様の期待を少しだけ超える「サプライズ」や「パーソナルな配慮」を意識的に提供することも、強いブランドロイヤルティに繋がります。例えば、予約時の情報からお客様の誕生日が近いことを知り、ささやかなお祝いを用意する。小さなお子様連れのお客様に、特別なアメニティや貸し出しグッズを提案する。こうした「期待を超える瞬間」の積み重ねが、感動を生み、口コミへと繋がります。
ホテルブランディングは、単に宿泊施設としての機能的価値を高めるだけでなく、そのホテル自体が「旅の目的」となり得るほどの魅力と個性を創造する活動です。それは、価格競争から一線を画し、顧客に選ばれ続け、長期的に愛されるための最も確実な投資と言えるでしょう。
もちろん、本質的なブランドを構築し、育てていくには時間と労力が必要です。しかし、その努力は必ず、ホテルの収益性向上、顧客ロイヤルティの確立、従業員の誇りの醸成、そして地域社会への貢献という形で実を結びます。
私たちmicadoは、データと戦略に基づき、貴ホテルの「DNA」を最大限に活かしたブランド構築を、構想段階から実行、そして持続的なマネジメントに至るまで、あらゆるフェーズで伴走支援いたします。
「自ホテルのブランドの方向性に迷っている」「何から手をつければ良いか具体的なアドバイスが欲しい」 もし、そうお感じでしたら、ぜひ一度私たちにご相談ください。貴ホテルの輝かしい未来を、揺るぎないブランドを通じて共に創造していきましょう。
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