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OTAは現代の宿泊施設経営に不可欠な集客ツールですが、その依存度が高まりすぎると、高額な手数料が経営を圧迫し始めます。売上の多くがOTA経由であるにもかかわらず、利益が思うように残らない、というジレンマを抱える施設様は少なくありません。
この記事では、OTA運用経験3年以上の担当者・マネージャー層向けに、なぜOTA依存が危険なのかを構造的に解き明かし、利益体質へ転換するための「チャネルミックス」という思考法を解説します。OTAを手数料を払う「コスト」ではなく、直販へ誘導するための「投資(広告塔)」と捉え直す、戦略的なチャネル設計術を、数百施設の改善実績からお伝えします。
OTAは強力な集客プラットフォームですが、その依存度が高まることには明確なリスクが伴います。売上は立っていても、中長期的な経営基盤が蝕まれていく危険性です。ここでは、OTA依存がもたらす3つの主要な経営課題を深掘りします。
OTA依存の最大のリスクは、利益率の圧迫です。OTA経由の売上には、10%から、時には会員プログラム費用や広告費を含めると20%を超える高額な手数料(実質CPA)が発生します。これは、売上からそのまま差し引かれる「変動費」です。
売上の8割、9割をこの高コスト体質のチャネルに依存していると、どれだけ稼働率を上げても、施設の利益(GOP)は一定水準から伸び悩みます。手数料は、施設が本来得るべき利益を直接的に削り取っていることを、マネージャー層は強く認識する必要があります。
OTA経由で宿泊したお客様の詳細な顧客データ(メールアドレス、予約履歴、個人属性)は、OTA側が保持しており、施設側には開示されません。これは、OTA依存の第二の深刻な問題です。
自社の資産となるはずの顧客リストが手に入らないため、施設側からリピート利用を促すダイレクトな活動ができません。結果として、一度宿泊していただいたお客様が再度予約する際も、再びOTAを経由することになり、永久に高額な手数料を支払い続ける「負のループ」に陥ります。
OTAプラットフォームは、本質的に「価格比較サイト」です。ユーザーはエリアや日付で検索し、表示された競合施設と自施設を「価格」や「クチコミスコア」で横並びに比較します。
この構造は、必然的に価格競争(ディスカウント)を誘発します。競合が値下げをすれば追随せざるを得ず、結果としてADR(平均客単価)が下落します。さらに、常に安売りをしているイメージが定着すると、施設の「ブランド価値」そのものが毀損され、「安くなければ泊まらない」という顧客層ばかりを集めてしまうリスクがあります。
OTA依存のリスクから脱却し、利益体質を実現するためには、単に「直販を頑張る」のではなく、戦略的な「チャネルミックス」の考え方が不可欠です。これは、各販売チャネルの「役割」を明確に定義し、経営目標の達成に向けてポートフォリオを組むという発想です。
OTA依存から脱却するといっても、OTAをゼロにすることは現実的ではありませんし、得策でもありません。OTAが持つ圧倒的な集客力、特に「新規顧客」へのリーチ力は、自社サイト単体では到底実現不可能なものです。
目指すべきは、OTAと自社サイト(直販)の健全なバランスです。私たちの経験上、利益率と集客力のバランスが取れた理想的な比率は、施設様の立地や業態にもよりますが、OTA:直販が 7:3 から 6:4 程度にあると考えられます。このバランスを意識的に作り出すことがチャネル戦略の核となります。
チャネルミックスにおける各チャネルの「役割」を定義します。
・OTAの役割:新規顧客の「獲得」
・自社サイトの役割:リピーターの「維持」と「利益の確保」
この役割分担を明確にすると、OTAに支払う高額な手数料は、単なる「コスト」ではなく、新規顧客を一人獲得するための「広告宣伝費(CPA)」であると捉え直すことができます。
重要なのは、その「広告宣f費」を支払って獲得したお客様を、いかにして2回目以降の予約で「利益率の高い自社サイト(直販)」へ誘導するか、という仕組み(導線)を設計することです。OTAは、あくまでリピーター予備軍との「最初の出会いの場」と位置付けます。
OTAを「広告塔」と位置付けた上で、自社サイトへの誘導を成功させるには、ユーザーが「自社サイトで予約する明確な理由」を提示する必要があります。その最強の武器が「ベストレート戦略(最安値保証)」です。
最も強力かつシンプルな誘導策が、価格差(ディスカウント)です。自社サイトでの販売価格を、OTAの掲載価格(ポイント付与などを考慮してもなお)よりも常時5%〜10%安く設定します。
そして、その事実を「公式サイトが最安値」というキャッチコピーで、OTAの施設ページ、自社サイト、SNSなど、あらゆる媒体で明記します。ユーザーはOTAで施設を見つけた後、多くがその施設名をGoogleで指名検索します。その際に公式サイトが最安値であることを知れば、わざわざ手数料の高いOTAで予約する動機は無くなります。
OTAとの契約上、価格を同一にしなければならない「レートパリティ(同価格設定)」の制約がある場合でも、諦める必要はありません。その場合は、「価格」ではなく「価値」で差をつけます。
これを「バリュー・アッド戦略」と呼びます。価格はOTAと同じでも、自社サイト経由の予約限定で「特別な特典」を付与するのです。
・例:レイトチェックアウト1時間無料
・例:ウェルカムドリンクサービス
・例:駐車場無料
・例:館内利用券500円分付き
これらの特典は、施設側の追加コスト(原価)を最小限に抑えられるものが望ましいです。ユーザーの心理としては、「同じ値段なら、特典が付く公式サイトの方がお得」と判断し、合理的な選択として自社サイトを選んでくれるようになります。
ベストレート戦略を準備したら、最後はユーザーが迷わずに自社サイトへたどり着ける「導線」を設計します。OTAで見つけたユーザーが、いかにスムーズに自社サイトへ流入し、予約を完了するかにかかっています。
前述の通り、OTAで施設に興味を持ったユーザーの多くは、予約確定前にその施設名をGoogleで「指名検索」します。この「指名検索トラフィック」を確実に自社サイトで受け止めることが、直販比率アップの生命線です。
Googleの検索結果で、OTA(楽天やじゃらん)の掲載ページよりも「上」に自社サイトの公式ページが表示されるよう、SEO(検索エンジン最適化)対策を徹底します。また、Googleマップ(MEO)の情報を充実させ、そこから直接自社サイトの予約エンジンに飛べるように整備することも極めて重要です。
OTAの規約上、施設説明欄に自社サイトへの直接リンクを貼ることは禁止されています。しかし、指名検索を「促す」ことは可能です。
例えば、施設紹介文の最後に「プラン詳細は『〇〇ホテル 公式サイト』でもご確認いただけます」や、「〇〇ホテル 公式」で検索、といった一文を追記します。これは間接的な誘導ですが、ユーザーに「公式サイト」の存在を意識させ、指名検索の行動を喚起する上で非常に有効なTIPSです。
OTAへの過度な依存は、高額な手数料による利益圧迫、顧客データの逸失、ブランド価値の毀損といった深刻なリスクを伴います。持続的な利益体質を構築するには、OTAと自社直販の役割を明確にする「チャネルミックス」の思考が不可欠です。
OTAは「新規顧客獲得のための広告塔」と割り切り、一度宿泊していただいたお客様を、利益率の高い「自社サイト」へ誘導する仕組みを構築します。そのための具体的な戦術が、「価格差」または「価値差」で魅力を出すベストレート戦略であり、それを支えるのが「SEO・MEO」による指名検索の受け皿整備です。
手数料を「コスト」として払い続ける受動的な運用から脱却し、手数料を「投資」としてコントロールする能動的なチャネル設計へ。これこそが、中上級者に求められるOTA運用術です。
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