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楽天トラベルは「5と0のつく日」や「楽天スーパーSALE」を通じて、依然として圧倒的な集客力を維持しています。多くの宿泊施設がこれらの特定日に合わせて販促や在庫を調整しており、楽天が市場の主導権を握っている状況です。
一休.comは2025年以降、楽天の主要セール日と重なる「5と0のつく日(GoGoセール)」や「1・9・19のつく日」を展開し、首都圏を中心に市場シェアの拡大を狙う戦略へと転換しました。この動きは、楽天の需要波に乗りつつ自社への流入を強化する意図があると考えられます。
さらに、じゃらんも特定日クーポンを強化するなど、OTA間の競争は一層激化しています。その結果、ホテルでは予約が特定日に集中し、レベニューマネジメントの複雑化や手数料負担増による利益圧迫が課題となっています。
楽天、一休.com、じゃらんという大手OTAの戦略が複雑に絡み合う中で、ホテルはどのような経営判断を迫られているのでしょうか。そこには、「二極化」と「カニバリゼーション」という無視できない現実があります。
OTA間のセール合戦は、必然的にホテルを価格競争が主導する「買い手市場」へと引き込みやすくなります。顧客はより安いプラン、よりお得なクーポンを求めてOTA間を回遊し、ホテルは割引による集客に頼らざるを得なくなる。これは、短期的な稼働率確保には繋がるかもしれませんが、長期的に見れば利益率の低下とブランド価値の毀損を招く危険な道です。 一方で、楽天が会員プログラムを強化したり、一休.comが高級路線を維持しようとしたりする動きは、価格以外の「独自の価値」で選ばれる「売り手市場」の可能性も示唆しています。ホテルが目指すべきは、この「売り手市場」で確固たるポジションを築くことではないでしょうか。
各OTAの施策に乗る際には、それぞれのプラットフォームを利用する顧客の属性を深く理解することが不可欠です。楽天ユーザー、一休.comユーザー、そしてホテルの主要顧客層は、それぞれどのような価値観を持ち、何を求めているのでしょうか。 例えば、楽天のセールに安易に追随することで、本来なら正規料金やより高い付加価値プランで予約してくれたかもしれない顧客が、割引プランに流れてしまう「カニバリゼーション(共食い)」が発生していないでしょうか。施設ごとの詳細なデータ分析に基づき、各OTAとの付き合い方、そして自社ブランドの守り方を戦略的に考える必要があります。
OTA間の顧客獲得競争は、ホテルにとってただの脅威なのでしょうか?私たちmicadoの分析は、そこに大きな「機会」が潜んでいることを示しています。重要なのは、その構造を理解し、戦略的に活用することです。
OTAの大型セールは、その強力なマーケティング力によって、普段ホテルを探していない層も含め、多くの人々の旅行意欲を刺激します。そして重要なのは、OTAで魅力的なホテルを見つけたユーザーの多くが、予約を確定する前に、より詳細な情報や公式サイト限定のプランを求めて、そのホテルの「公式サイト」を訪れるという行動パターンです。
これは、OTAがホテルの認知度向上に貢献する「ビルボード効果(広告塔効果)」と呼べる現象です。この効果を理解し、公式サイトを最高の受け皿として準備しておくことが、OTAの集客力を自社の利益に転換するための第一歩となります。
では、このビルボード効果を最大限に活用すると、具体的にどのような成果が期待できるのでしょうか。
私たちのクライアント施設の協力を得て行った分析では、OTAの大型セール期間中に、公式サイトでも戦略的に同等以上の魅力あるキャンペーンを同時開催(つまり「被せて」展開)した場合、通常の自社キャンペーンのみを実施している期間と比較して、1日の平均自社予約数が約1.7〜4.6倍に増加するという顕著な結果が出ています。
このデータは、OTAの集客力をテコにして、手数料のかからない収益性の高い直接予約を大幅に伸ばせるという、ホテルにとって非常に明るい可能性を示しています。
この最新のOTA動向とデータを踏まえ、ホテルは具体的にどのような戦略を構築すべきなのでしょうか。私たちは、OTAの波を巧みに乗りこなし、自社の主導権を確立するための具体的なステップを提案します。
まず基本となるのは、OTAセールという大きな波に賢く「乗っかり」、その集客力を自社サイトへ誘導し、さらにそこで「差別化」を図る戦術です。OTAセール日には、自社サイトでも魅力的なプランを「被せて」展開します。その際、単なる価格追随ではなく、公式サイトで予約するからこその明確なメリットを打ち出すことが重要です。
例えば、客室のアップグレード保証、レイトチェックアウト無料、館内利用券のプレゼント、あるいは次回利用可能な特典など、顧客が「公式サイトが一番お得で、特別な価値がある」と感じる独自性を追求します。 そして、これらのキャンペーン情報は、OTAセールが始まる前から、自社のウェブサイト、SNS、メールマガジンなどを通じて積極的に告知し、顧客を直接自社サイトへ誘導する努力が不可欠です。
次のステップは、OTAのセールカレンダーに振り回されるのではなく、ホテル独自の魅力や強みを活かして「自ら集客の山場を創る」という主体的な意識を持つことです。
例えば、その季節ならではの食材を活かした料理長の特別ディナーウィーク、地元アーティストや文化団体と連携した体験型イベント、特定のテーマ(ウェルネス、アート、歴史など)に特化した宿泊プラン、あるいは既存顧客向けのクローズドな感謝イベントなどを企画し、年間を通じて自社主導の集客ピークを戦略的に設計します。これにより、OTAのセール日に依存しない安定した集客構造を構築できます。
目先の集客施策と並行して、長期的な視点でホテルの「ブランド価値」を高め、顧客との継続的な関係、すなわち「エンゲージメント」を築く努力が、OTA依存からの真の脱却には不可欠です。 そのためには、まず自ホテルの独自の魅力を伝える質の高いコンテンツマーケティング(例えば、ブログでのストーリー発信、SNSでの日々の魅力発信)を継続的に行うことが重要です。
また、CRM(顧客関係管理)システムを活用し、顧客データを分析し、個々の顧客に合わせたパーソナルなコミュニケーションやオファーを提供することで、顧客ロイヤルティを高め、リピーターを育成します。強力なブランドと熱心なファンは、OTAの価格競争とは無縁の、安定した集客基盤となります。
楽天トラベル、一休.com、じゃらんをはじめとするOTAの戦略は、今後も絶えず変化していくでしょう。この大きな潮流を正確に読み解き、その動きを逆手にとって自社の利益に繋げるしたたかさと、同時にOTAに過度に依存することなく自社のブランドと集客力を高めていく主体性が求められます。 「自社で集客の山場を作る」という意識を持つこと。それこそが、OTA依存から少しでも抜け出すために欠かせない取り組みであることと、OTA運用以外のブランド認知拡大や顧客ロイヤルティを高めるマーケティング活動が鍵となります。