公式サイトからの予約を増やしたいという相談をいただいたとき、最初に出てくる案はほぼ同じです。公式限定クーポンを出す、公式を一番安くする、セールをもう一本増やす。つまり値引きを足す方向です。
たしかに安さは分かりやすい武器です。ただし、値引きを足して直予約を伸ばした場合、手数料を浮かせたつもりが、実は値引き分として消えていることがよくあります。しかも一度安くした公式サイトは、次回以降も同じ安さを期待されます。
この記事では、値引きを足す前にやることとして、媒体手数料との差額を原資として捉え直し、値引きと非金銭特典にどう振り分けるか、どんな条件で公式だけの理由を作るかを整理します。支援先で実際に回している設計の順番です。
値引きを足す前に、手数料との差額をどこに使うかを決める
公式限定特典の話は、アイディア出しから始もってしまいがちです。その前に決めておくと楽になるのは、使える原資の上限です。
「公式が安い」だけでは、お客さまは切り替わらない
先に前提を一つ。公式サイトを最安に保つことは必要条件ですが、十分条件ではありません。媒体には口コミもポイントも予約履歴も揃っています。同じ価格なら、使い慣れた画面を選ぶのが自然です。
しかも現場で起きているのは、値引き幅の章差でなく「公式で予約する理由が説明できない」という状態です。実際にある支援先では、週末に入っている媒体予約のお客さまに対して、チェックイン時に公式への切り替えをご案内しています。このとき、価格だけを語っても動きません。「公式ならこれが付く」と言えるものがあるかどうかで、反応が変わります。
だから設計の問いは「いくら安くするか」でなく、「公式を選んだ人に何を渡すか」になります。
手数料相当を原資として置き、値引きと特典に振り分ける
公式経由で取った予約には、媒体手数料がかかりません。媒体によってはこの手数料が客室単価の二割を超えます。この差額が、公式に使える原資です。支援先でも、公式限定キャンペーンの値引き幅はこの手数料水準を根拠に決めています。
ここを数字で置くと、三つの判断ができるようになります。
・値引きに回せる上限(これ以上下げると手数料より高くつく)
・非金銭特典に回せる上限(室単位の原価で換算する)
・広告や予約エンジンなど、集客の仕組みに回せる上限
支援先での配分の目安は、値引きに使うのは原資の半分まで、残りを非金銭特典と仕組みに回すという形です。値引きに全額を充てないのは、値引きは残らないからです。安いから予約したお客さまは、安くなくなったときに戻ってこない。一方で、滞在中に使って良かった特典は、次回の予約先を決める理由になります。
原資の上限を先に決めておくと、現場から上がってくる特典アイディアを「やる・やらない」でなく「原資に入る・入らない」で判断できます。この基準がないと、特典は積み上がる一方で、利益は静かに削られていきます。

図の左から順に、上限を決める・中身を入れ替える・年次で見直すと、扱い方が変わります。まず値引きの上限を決めてから、残りの配分を考える順番です。
非金銭特典は「その滞在で使える」ものから設計する
原資の上限が決まったら、次は中身です。ここで選び方を間違えると、コストをかけたのに予約の決め手にならないという結果になります。
貯める特典より、目の前で使える特典が効く
大手チェーンのロイヤルティプログラムでも、ポイントを貯めて後で使う形から、予約その場で特典を選べる形への転換が進んでいます。貯まるまでの道のりが遠い特典は、今回の予約先を変える理由になりにくいという判断です。
室数の限られた施設なら、この発想はもっと使えます。会員制度を作り込む前に、目の前の滞在で使える特典を並べる。支援先で常時展開しているのは、公式予約限定の共用サウナ無料利用と、自館で作っているビールや日本酒の一杯サービスです。いずれも原価は小さく、滞在体験の印象に直接残ります。
選び方の基準は三つです。
・その滞在中に使える(後日使うものは後回し)
・自館の強みと重なる(食事、温泉、立地、企画力のいずれか)
・媒体では提供しにくい(公式でしか取れないと語れる)
ちなみに、旅行者側の選択基準も価格一边倒ではなくなっています。直近の調査では、滞在で得られる体験と、予約後に変更しやすいことを重視する声が目立ちます。値引きでなく、体験と柔軟さで差をつけられる余地があるということです。
現場が確実に出せる範囲に限定する
特典設計で一番多い失敗は、欲張って現場が回らなくなることです。チェックイン前の室利用や部屋のアップグレードは、満室日には提供できません。提供できない日が数日でも出ると、「特典が付くと書いてあったのに使えなかった」という口コミが残ります。公式予約を伸ばすための施策で、公式予約者の満足度を下げてしまうのは本末転倒です。
だから特典は、稼働に左右されないものを軸に置きます。常時提供できるものと、稼働が低い日だけのものを分け、後者は「空室状況により」と明記する。この一行の有無で、現場の負荷は大きく変わります。
特典の一覧は、ウェブサイトの文面だけでなく、フロントとレストランの手元にも同じ形で置いてください。提供側が迷わない状態まで作って、はじめて特典は成立します。

図の左側から先に出し、右側は後回しにします。判断の基準は、その滞在中に価値が伝わるかどうかだけです。
条件を絞って公式だけの理由を作り、比率で点検する
最後に、いつ・誰に出すかと、効いているかをどう見るかを決めます。ここが抹けると、特典は年中出しっばなしになり、差別化の意味を失います。
平日・連泡・会員に絞って、原資を集中する
公式限定の強めの条件は、埋めたい日に寄せます。支援先の公式限定キャンペーンは、平日限定で二割オフ、連泡の二泊目を半額、という形で設定しています。週末や連休には出しません。埋まる日に値引きを出しても、単価を下げるだけで終わります。
条件の絞り方は、埋めたい日と、伸びしろのある客層で考えます。
・平日と閑散期:値引きを含む強めのオファーを公式だけに出す
・連泡:二泊目以降を安くすると、清掃や食事の手間も押さえられる
・会員・:値引きでなく非金銭特典を上乗せする
・週末と繁忙期:値引きは出さず、体験側の特典だけを残す
年間の出し方も先に決めておきます。支援先では、値引きを含むキャンペーンは閑散期に重なる四つの月に固定し、それ以外の月はブランドを伝える企画や季節の体験を中心に置いています。さらに、どのキャンペーンも公式先行とする。先に媒体で出すと、公式は後追いの安い選択肢に見えてしまいます。
見るのは公式予約比率と、特典の使われ方
特典設計の効果は、単発の予約件数でなく比率で見ます。全体予約のうち公式経由が何割を占めているか。中小規模の施設でも、通年で二割五分から三割が一つの目安になります。この数字が動いていないのに予約件数だけが伸びている場合は、媒体経由も同じだけ伸びているだけのことがあります。
もう一つ見ておきたいのは、特典が実際に使われたかです。使われていない特典は、選んでもらう理由になっていない可能性が高い。フロントで手元の記録を取るだけでも十分です。使われているものを残し、使われていないものを引っ込める。この入れ替えを半年に一度やると、特典の数は増やさずに中身だけが良くなっていきます。
なお、公式を最安に保つための価格の作り方は、mintの別記事で整理しています。価格で正しい位置を取った上で、この記事の特典と条件を乗せると、公式を選ぶ理由が二重になります。

図の四区分のうち、値引きを出すのは左の二つだけです。週末と繁忙期は、体験側の特典だけを残します。
まとめ
この記事でお伝えしたいことは三つです。
・公式の特典はアイディアからでなく、媒体手数料との差額という原資の上限から設計する
・原資の全額を値引きに充てず、その滞在で使える非金銭特典に振り分ける
・平日・連泡・会員に条件を絞り、公式予約比率と特典の使われ方で点検する
割引は一度出すと戻しにくく、特典は入れ替えができます。この非対称さが、値引きを後回しにする理由です。安くするのは、他の手を使い切ってからでも遅くない。
まずは自館の公式限定特典を紙一枚に並べ、それぞれの原価と、直近一か月で使われた回数を埋めてみてください。使われていない特典に割いている原資が、次の一手の予算になります。
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