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多くの宿泊施設様が「サイト分析」と聞くと、「難しそう」「Web担当者の仕事だ」と敬遠されがちです。しかし、直販率の改善という明確な目標を持つ宿泊施設にとって、データ分析は「感覚」を「確信」に変えるための最強の武器となります。
本記事では、Googleが無料で提供する3大ツールがそれぞれどのような役割を持ち、宿泊施設の現場でどう活用すべきかを解説します。特に、全ての分析の前提となる「タグ設置」の重要性と、多くの施設が見落としがちな「予約エンジンの計測漏れ」という落とし穴になりやすいポイントをハイライトしています。
Google Analytics 4(GA4)は、公式サイトという「Webの店舗」に、お客様が「来店(訪問)」してから「購入(予約)」に至るまでの「行動」を詳細に記録・分析するためのツールです。直販率改善のヒントは、すべてこのサイト内行動データに隠されています。
GA4の役割は、単に「何人来たか(アクセス数)」を測るだけではありません。直販を増やす上で重要なのは、「どの広告やOTA経由で来た人が」「どのプランページを熟読し」「どの客室ページを見た後に」「予約完了(コンバージョン)に至ったか」という一連の「UX=顧客体験」をデータで追跡することです。
逆に言えば、「特定のプランページで離脱率が異常に高い」といったサイトの「弱点」や、「スマホからの予約率だけが極端に低い」といった「機会損失」も可視化できます。GA4は、サイトのどこに不具合があり、どこが強みなのかを特定するための「分析ダッシュボード」となります。
GA4でまず見るべきは、アクセス数(セッション)ではなく、売上に直結する「コンバージョン率(CVR)」と、そこに至る「行動フロー」です。
例えば、「Aプラン(高単価・露天風呂付客室)」と「Bプラン(低単価・標準客室)」のページ閲覧数とCVRを比較分析します。もしAプランの閲覧数は多いのにCVRが低い場合、「写真は良いが、プラン特典の説明が弱くて予約の決め手に欠けるのでは?」といった仮説が立てられます。
また、デバイス別(PC vs スマホ)の分析も必須です。もしスマホからのアクセスが8割を占めるのに、スマホのCVRがPCの半分以下であれば、それは「スマホの予約フォームが致命的に使いにくい」という明確な改善シグナルです。
Google Search Console(GSC)は、GA4とは対照的に、ユーザーが施設のサイトに「訪問する前」の行動、すなわち「Google検索」のデータを分析するツールです。集客戦略の「入口」を最適化するために不可欠なツールです。
ユーザーがどのような「検索キーワード(クエリ)」でGoogleを使い、その結果として貴施設のサイトが「何回表示され(表示回数)」「何回クリックされたか(クリック数)」を教えてくれます。
GA4が「サイト内(来店後)の行動」を分析するのに対し、GSCは「サイト外(来店前)のニーズ」を分析するツールです。お客様がどのような「悩み」や「目的」を持って検索エンジンを使っているかを理解することは、SEO(検索エンジン最適化)戦略や、新しい宿泊プランを開発する上で極めて重要なインプットとなります。
GSCのデータを分析する際は、「指名検索(施設名での検索)」と「一般検索(それ以外)」に分けて考えるのが鉄則です。
「指名検索」での流入が多いのは当然ですが、直販率をさらに高めるには、「(地域名) 温泉 宿」「(地域名) 記念日 ホテル」「(地域名) 子連れ 旅館」といった、まだ貴施設を知らない「潜在顧客」の検索キーワードで上位表示され、流入を獲得できているかが鍵となります。
GSCを見て、もし指名検索以外の流入がほぼゼロであれば、それは「公式サイトが集客装置として機能しておらず、OTAの“確認”のためにしか使われていない」危険な状態を示唆しています。
最後に、GA4やGSCという「分析ツール」を機能させるための「土台」となる、Google Tag Manager(GTM)と「タグ設置」の重要性について解説します。ここは中級者向けの内容を含みますが、マーケティング責任者として絶対に押さえるべき最重要ポイントです。
Webサイトで様々なデータを計測するには、「タグ」と呼ばれる専用の計測コードを、サイトの各ページに埋め込む必要があります。GA4の計測タグ、広告のコンバージョンタグ、ヒートマップツールのタグなど、施策が増えれば増えるほど、これらのタグ管理は煩雑になります。
Google Tag Manager(GTM)は、これらの無数のタグを、サイトのソースコードを直接編集することなく、GTMの管理画面上だけで一元管理・設置できる無料ツールです。「このページのこのボタンが押されたら計測する」といった複雑な設定も可能になります。Web制作会社への修正依頼コストを削減し、マーケティング施策のスピードを上げるために、今や必須のツールと言えます。
宿泊施設サイトにおいて、最も頻発し、かつ最も致命的な「タグ設置」のミス。それが、「予約エンジン(予約フォーム)側に、GA4のコンバージョンタグが設置されていない」ケースです。
多くの宿泊施設サイトは、自社サイト(例:example.com)と、予約システム会社が提供する予約エンジンのドメインが分かれています。この「ドメインをまたぐ」タイミングでタグの設定が途切れてしまうと、「サイトに何人来たか」は分かっても、「最終的に何件予約されたか(CVR)」をGA4で計測することができません。
GTMの導入やGSCの連携も重要ですが、マーケティング責任者としての最優先事項は「売上(コンバージョン)を正しく計測できる土台」を構築することです。
今すぐ、貴施設のWeb制作会社または予約システム会社に対し、「GA4の計測タグが全ページに設置されているか?」「ドメインをまたいだ予約エンジンの『予約完了ページ』に、GA4のコンバージョンタグ(またはeコマースタグ)が正しく設置され、売上が計測できているか?」の2点を明確に確認してください。もしこれが出来ていなければ、他のどんな分析も無意味です。まずはこの「穴」を塞ぐことが、データドリブンなサイト改善の第一歩となります。
公式サイトの「感覚運用」から脱却し、直販率という「成果」に繋げるためには、データに基づいた客観的な判断が不可欠です。「なんとなく」の改善は、時間とコストの無駄であるだけでなく、時にはCVRを悪化させるリスクすらあります。
Googleが無料で提供する「GSC(Google Search Console)」は、お客様がサイトに来る前(検索行動)のニーズを把握し、「GA4(Google Analytics 4)」は、サイトに来た後(サイト内行動)のUXを可視化します。これら2つのツールは、集客とCVR改善の両輪であり、どちらが欠けても戦略は成り立ちません。
そして、これら全ての分析を機能させる大前提が、「正しいタグ設置」です。特に、ドメインをまたぐ「予約完了ページ」へのコンバージョンタグ設置は、貴施設の売上を計測する「心臓部」です。まずはこの計測環境が正しく構築されているかを確認し、「感覚」ではなく「数字」で語れるマーケティング戦略をスタートさせてみてはいかがでしょうか?