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公式サイトを立派なデザインでリニューアルしたにも関わらず、期待したほど予約コンバージョン率(成約率)が上がらない。「なんとなく」ブログを更新し、「なんとなく」SNSで発信する。そうした「感覚的な運用」に陥ってはいないでしょうか。
本記事では、なぜ分析なきサイト運用が無駄に終わるのか、そしてデータを「知見」に変え、具体的な「施策(=売上)」に繋げるための思考プロセスを、実践的に解説します。サイトを「情報パンフレット」から「収益を生む販売装置」へ進化させる第一歩がここにあります。
多くの施設が「サイトは作って終わり」という認識に留まっていますが、それは大きな機会損失を生み続けています。デジタルマーケティングの主戦場において、公式サイトは「一度作ったら完成するパンフレット」ではなく、「日々改善し続ける販売装置」です。そして、その改善・育成に不可欠なのが「分析」という視点です。
公式サイトは、いわばオンライン上の「もう一つの宿泊施設」です。現実の施設を日々清掃し、お客様の声を聞いてサービスを改善するように、公式サイトもまた、お客様(訪問ユーザー)の行動に応じて「育てる」必要があります。
分析データとは、その「成長記録」であり「健康診断のカルテ」に他なりません。どのページ(客室)が多く見られ、どの導線(廊下)が機能していないのか。データはサイトの現状を客観的に示します。このカルテを見ずに感覚だけでサイトを改修することは、医師が問診も検査もせずに手術を行うようなもので、極めて危険です。
また、OTA(Online Travel Agent)に依存する最大のデメリットは、顧客データがOTAのものとなり、自社の資産として蓄積されない点です。OTAはあくまで「予約が成立した」という結果しか提供してくれません。
しかし公式サイトならば、「予約しなかったお客様」が「どのような人(流入経路)」で、「どの客室ページ」を見て、「どのプラン」と比較検討し、「どのページ」で離脱したか、という「予約に至らなかったプロセス」の全データを取得できます。この「失敗データ」こそが、次の商品開発やマーケティング施策を考える上で最も貴重な戦略的資産となるのです。
「分析」というと、サイトの「弱点」や「問題点」ばかりを探す「粗探し」のように捉えられがちです。しかし、マーケティング戦略においては、むしろ「強みをさらに伸ばす」ためにこそ分析は活用されるべきです。
例えば、「特定のブログ記事経由のCVRが異常に高い」ことが判明したとします。それは、その記事のテーマ(例:周辺の観光情報、特定の滞在スタイル)が、貴施設の「予約顧客」のニーズと強く合致している証拠です。であれば、そのテーマのコンテンツをさらに深掘りしたり、関連する宿泊プランを開発してその記事から直接誘導する、といった「強みを最大化する」施策にリソースを集中投下すべき、という戦略判断が可能になります。
多くの宿泊施設様が分析に踏み出せない、あるいは分析していても成果が出ない背景には、データに対する根強い「誤解」が存在します。ここでは、現場のマーケティング責任者が陥りがちな3つの典型的な誤解を解きほぐします。
最も多い誤解がこれです。もちろん、サイトに見込み客を集める「集客(アクセス数)」は重要です。しかし、それが最終的な「予約(コンバージョン)」に繋がっていなければ、マーケティング施策としては失敗です。
例えば、多額の広告費をかけてアクセス数を2倍にしても、サイトのUX(体験)が悪いためにCVR(予約率)が半減してしまえば、売上は変わりません。むしろ広告費の分だけ赤字です。これは「穴の空いたバケツ」に必死で水を注ぎ込んでいるのと同じ状態です。分析の目的は、まずこの「穴(=CVRを下げている原因)」を特定し、それを塞ぐことにあります。アクセス数の「量」だけでなく、CVRという「質」をセットで追うKPIドリブンな視点が不可欠です。
「GA4の画面は複雑で分からない」「データ分析はWeb制作会社の仕事だ」と丸投げにしてしまうケースも散見されます。しかし、これでは本質的な改善は望めません。なぜなら、最強の改善仮説は「数字(定量データ)」と「現場の肌感覚(定性データ)」が組み合わさった時に初めて生まれるからです。
Web業者は「どのページの離脱率が何%高い」という「数字」は分かります。しかし、なぜそのページで離脱が起きるのか、その「理由(顧客心理)」までは分かりません。そこを補うのが、「その時期は競合Aが安いプランを出していた」「その客室は写真が古く、現場でも魅力が伝わりにくいと話していた」といった「現場の肌感覚」です。この両者を突き合わせることで初めて、「UX設計者」としての正しい改善アクションが見えてきます。
Google アナリティクス 4(GA4)のような高機能な分析ツールを導入しただけで、「何か改善されるはずだ」と期待してしまうのも典型的な誤解です。分析ツールは、例えるなら「高機能な体重計」に過ぎません。
毎日体重計に乗る(=GA4を開く)だけで体重が減らない(=サイトが改善しない)のと同じです。重要なのは、体重(=数字)という「結果」を見て、「食事制限しよう(施策)」「運動を始めよう(施策)」といった「次の行動」を決めることです。データは「ただ見る(See)」ものではなく、そこから「意味を読み解き(Read)」「次の行動を議論する(Action)」ためのものです。分析ツールを眺める時間より、データに基づき「次、何を試すか」を議論する時間を確保することが成果に繋がります。
データを「成果」に変えるマーケティング責任者は、「数字」そのものに一喜一憂するのではなく、その数字をどう解釈し、次のアクションに繋げるかという「判断基準」を持っています。分析は「結果を知る」ためでなく、「未来の行動を決める」ために行うものです。
優れた分析プロセスは、常に3つのステップで構成されます。
①What(何が起きたか):まず、GA4などで「数字(結果)」を客観的に把握します。(例:「スマホ経由のCVRがPCより50%低い」)
②Why(なぜ起きたか):次に、その数字の背景にある「原因(仮説)」を考えます。(例:「スマホの予約フォームが入力しづらいのではないか?」「スマホではプランの比較がしにくいのでは?」)
③So What(だからどうする):最後に、その仮説を検証・改善するための「施策(ネクストアクション)」を決定します。(例:「予約フォームの改善(EFO)をA/Bテストする」「スマホ用プラン一覧ページのUI改修を検討する」)
多くの現場は「What」の把握で止まってしまいます。マーケティング責任者の真の役割は、「Why」の仮説を立て、「So What」の行動を設計することにあります。
上記の例をさらに深掘りします。「スマホからのCVRが低い」という「What」を発見したとします。ここで「Why」を考えるために、さらにデータを深掘り(ドリルダウン)します。例えば、予約フォームの「入力開始率」は高いのに「入力完了率」が極端に低い、というデータが見つかったとします。
この場合、「スマホでプランまでは魅力的に見えているが、いざ予約しようとフォームに来た段階で、入力項目が多すぎる・必須項目が分かりにくい・エラー表示が不親切、といった理由で断念している」という精度の高い「Why」の仮説が立てられます。
ここまでくれば「So What」は明確です。「入力項目の削減」「住所自動入力の導入」「エラー表示の最適化」といったEFO(エントリーフォーム最適化)を最優先で実施すべき、という戦略的な「判断」が可能になります。
GA4はあまりに多機能なため、初心者は「全ての数字」を見ようとして溺れがちです。そうではなく、まずは貴施設にとって最も重要な「判断基準」となる指標を定義することが先決です。
最初に決めるべきは「KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)」、すなわち最終ゴールです。これは通常「直販売上高」や「直販比率」になります。次に、KGIを達成するための中間指標である「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」を定めます。これが「公式サイトのCVR(予約率)」や「客単価」にあたります。
日々の分析では、まずこのKGI/KPIの数字を確認し、もしその数字に変動があれば、その「原因(Why)」を探るために「流入経路別CVR」「デバイス別CVR」「直帰率」といった下位の指標をドリルダウンして見ていく。この「優先順位」を持った分析アプローチが、迷子にならないための鉄則です。
公式サイトの「感覚運用」は、例えるなら、地図も羅針盤も持たずに航海に出るようなものです。目的地(=売上向上)にたどり着く保証はなく、無駄なコスト(広告費や人件費)を浪費し続けることになりかねません。
サイト分析とは、その航海を成功に導くための「羅針盤(KGI/KPI)」であり、「海図(データ)」です。GA4のようなツールは、その使い方を学ぶ「専門家の作業」ではなく、顧客の「声なき声」を聞き、施設の魅力を正しく伝えるための「マーケティング責任者の戦略ツール」として捉え直す必要があります。
大切なのは、全ての数字を理解することではありません。「数字(What)」という結果から「原因(Why)」を推測し、次の「行動(So What)」を決定するという「判断基準」を持つことです。この記事を読んだ今日から、貴施設のサイトの「数字」を眺め、「なぜ、お客様はここで離脱したのだろう?」と、顧客心理に思いを馳せる「UX設計者」としての一歩を踏み出してみてください。その小さな「Why」の積み重ねが、必ずや「直販率」という大きな成果に変わるはずです。