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OTA レベニューマネジメント

2025.12.17

2025.12.17

【予約率UPか、損失回避か】ホテル収益を左右するキャンセルポリシーの最適化

「直前までキャンセル無料」。この魅力的な響きは、OTAの集客戦略の核となっています。一方で、マネージャーの皆様は、安易な「仮押さえ」による高いキャンセル率と、それに伴う収益予測の困難さに頭を悩ませているのではないでしょうか。かといって、ポリシーを厳格化すれば、今度は予約率(CVR)そのものが低下してしまいます。

この記事では、キャンセルポリシーを単なる「規則」ではなく、収益を最大化するための「戦略的ツール」として捉え直し、予約率と収益性の最適バランスを見つけ出すための設計思想を徹底解説します。

「柔軟な」ポリシー(予約率UP)のリスクとは?

キャンセルポリシーの「柔軟性」は、現代のオンライントラベル市場において、最も強力な集客武器の一つです。しかし、その強力な効果の裏には、マネージャーが管理すべき重大なリスクが潜んでいます。

顧客が予約をためらう最大の理由の一つが、「予定が変わるかもしれない」という不確実性です。特に宿泊日が数ヶ月先の場合、この心理的障壁は高くなります。「直前までキャンセル無料」というポリシーは、この障壁を限りなくゼロに近づけます。「とりあえず押さえておこう」という行動を誘発し、予約率(CVR)を劇的に向上させる効果があります。

しかし、予約ハードルが下がることの副作用として、「仮押さえ(とりあえずの予約)」が横行します。その結果、オンハンド(現時点の予約数)が順調に見えても、宿泊日直前に大量のキャンセルが発生し、キャンセル率が30%、40%と高騰するケースも珍しくありません。これは収益予測の精度を著しく低下させ、レベニューマネジメント(RM)の根幹を揺るがす事態となります。

大手OTAが「キャンセル無料」を強く推奨し、検索フィルターの主要項目に据えているのは、これがプラットフォーム全体のCVRを高め、市場シェアを拡大するための強力な戦略だからです。彼らにとって、個々の施設のキャンセル率よりも、プラットフォーム全体の流通総額(とCVR)が優先されます。この構造を理解することが重要です。

公式サイトがOTAより厳しいポリシーである危険性

もし、貴施設の公式サイトのキャンセルポリシーが、OTA(例:3日前まで無料)よりも厳しい(例:7日前から有料)場合、顧客はどちらで予約するでしょうか。価格が同じ(または公式サイトがわずかに安い)程度では、顧客は「柔軟性」という価値を持つOTAを選びます。ポリシーの違いが、知らぬ間に公式サイトのCVRを低下させ、機会損失を生んでいる可能性があるのです。

「厳格な」ポリシー(収益性UP)のリスクとは?

柔軟なポリシーが招くキャンセル率の高騰に対し、その対極にあるのが「厳格な」ポリシーです。これは損失を直接的に補填し、在庫管理を安定させる効果がありますが、導入には細心の注意と戦略的な価格設計が求められます。

ポリシーを厳格化する第一のメリットは、「キャンセル料」の徴収による収益の安定です。直前キャンセルが発生しても、その損失の一部(あるいは全部)を補填できます。さらに、「キャンセルすると費用が発生する」という認識が顧客に働くため、安易な「仮押さえ」を心理的に抑制する効果も期待できます。

厳格なポリシーの最たるものが「返金不可(Non-Refundable)」プランです。このプランの最大の価値は、キャンセル料収入そのものよりも、「予約が売上として確定する」点にあります。キャンセルによる変動(ブレ)がなくなるため、需要予測と在庫管理(=レベニューマネジメント)が非常に容易になり、収益予測の精度が格段に向上します。

当然ながら、厳格なポリシーは顧客に「リスク」として認識されます。「もし予定が変わったら損をしてしまう」という懸念が、予約ボタンを押す直前での「離脱」を招き、CVR(予約率)を低下させる直接的な要因となります。特に、まだ貴施設に信頼を寄せていない新規顧客ほど、この傾向は強くなります。

厳格なポリシーを成功させる鍵は、顧客に「選択肢」を提供することです。「返金不可プラン」を単体で販売するのではなく、必ず「キャンセル可(柔軟なポリシー)だが価格は標準」のプランと併売します。そして、「返金不可プラン」は「大幅に安く」設定します。これにより、顧客は自らの予定の確実性に基づき、「柔軟性を取るか(標準価格)」「安さを取るか(返金不可リスク)」を自ら選ぶことができるようになります。

「客層」と「時期」による最適化

キャンセルポリシーは、一度決めたら変えない「静的な規則」ではありません。施設の利益を最大化するためには、ターゲットとする客層や、需要の強弱(時期)に応じて使い分ける「動的な戦略ツール」として設計する必要があります。

多くの施設にとっての王道は、前述した「併売戦略」です。まず、施設全体の基本となる標準ポリシー(例:3日前から30%、前日50%、当日100%など)を定めます。その上で、それよりも10%~20%安い「返金不可プラン」を常に併売します。これにより、予定が不確実な顧客のCVRを維持しつつ、予定が確定している顧客を(割引と引き換えに)確実な売上として取り込むことができます。

ポリシーは客層によっても最適化すべきです。例えば、予定変更や直前キャンセルが比較的少ないレジャー客(特に遠方からの旅行者)には、標準ポリシーや返金不可プランが有効です。一方で、急な出張変更などが避けられないビジネス客に対し厳格なポリシーを適用すると、利便性の悪さからリピートを失う可能性があります。法人契約やビジネス利用が多い施設では、柔軟な対応が求められます。

繁忙期や満室予測日は、レベニューマネジメントの観点から非常に重要です。この時期は、キャンセルが出ても「再販売が容易」であり、かつ「高単価」が期待できます。したがって、厳格なポリシーでCVRを落とすよりも、あえてポリシーを「柔軟」にしてでも予約のハードルを下げ、高単価での予約(CVR)を最大化し、在庫を早期に埋める戦略が有効な場合があります。

閑散期は、繁忙期と真逆の思考が必要です。閑散期は需要が絶対的に少ないため、一度キャンセルが発生すると「再販売」が極めて困難であり、そのまま「空室(機会損失)」に直結します。この時期に「キャンセル無料」で仮押さえが横行すると、貴重な販売機会を失い続けます。対策としては、安易なキャンセルを防ぐために基本ポリシーを標準(例:7日前から)に戻すか、あるいは「返金不可プラン」の割引率を戦略的に高め(例:通常価格から20%OFF)、価格に敏感な層を「確実な売上」として取り込むことが有効です。

まとめ

キャンセルポリシーは、単なる「顧客向けの規則」ではなく、施設の収益構造を左右する「レベニューマネジメント戦略」そのものです。「柔軟性」を追求すれば予約率(CVR)は上がりますが、キャンセル率の高騰と収益予測の悪化を招きます。「厳格性」を追求すれば損失は補填できますが、CVRの低下を招きます。

重要なのは、このトレードオフを理解した上で、「併売」によって顧客に選択肢を提供し、自施設の客層や需要期に応じてポリシーのバランスを「動的に設計」することです。感覚的な設定を止め、キャンセル率、CVR、再販売率のデータを分析し、貴施設にとっての「収益が最大化されるポリシー」を戦略的に構築してください。

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