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2026.03.24
2026.03.24
「満室のはずなのに、なぜか利益が残らない」「周辺の大型イベント当日、気づいた時には安いプランで売り切れてしまっていた」。こんな苦い経験はありませんか。
「イベント」や「連休」は、宿泊施設にとって最大の収益機会です。しかし、この需要の特性を理解せず、日常の「早割」と同じ感覚で先行販売してしまうことは、本来得られたはずの利益を放棄していることに他なりません。
この記事では、感覚的な価格設定から脱却し、ピーク需要を「機会損失」から「最大利益」に変えるための、戦略的かつ段階的なプライシング設計を解説します。
ピーク需要のプライシング戦略は、1年前、あるいはそれ以前の「情報戦」から始まっています。最大の機会損失は、需要の強さに「気づかない」まま、安い価格で販売してしまうことです。
レベニューマネジメント(RM)の担当者、あるいはマネージャーの責務は、自施設の需要カレンダーを「1年前」から「特別需要」で埋めることです。近隣のコンサートホール、国際会議場(コンベンションセンター)、スタジアム、イベント会場のスケジュールは、常に監視・把握し、即座に自施設の料金カレンダーに反映させる体制が不可欠です。
イベント需要の特性は明確です。
(1) 目的(=イベント参加)が明確であるため、価格弾力性が極めて低い(=価格が通常より高くても、その日に・その場所で泊まる必要があるため予約する)
(2) イベントのチケット発売日や開催発表と同時に、予約が「一斉に」殺到します。この2つの特性を理解することが、戦略の第一歩です。
ここでの機会損失は、「イベント該当日」の存在に気づかず、通常の「早割プラン(例:90日前まで20%OFF)」を販売し続けてしまうことです。
価格弾力性の低い顧客が殺到するため、安い早割プランは「瞬時」に売り切れます。結果、稼働率は100%(満室)になりますが、本来2万円、3万円で売れたはずの客室を1万円で販売してしまうと、施設は「大きな機会損失」となります。
よくある失敗事例では、需要の特定が完了した時点で、その該当日(および、需要が見込まれる前後の日)は、販売開始時点から「通常期の早割」を適用せず、「特別料金(料金カレンダー上の最高ランク、あるいはそれ以上)」を設定します。たとえ1年前であっても、需要の「質」が違うのですから、価格も変える。これが利益を設計する思考です。
イベント該当日を「最高ランク」の固定料金で設定するだけでは、まだ「守り」のRMに過ぎません。真の利益最大化は、その後の「予約ペース(売れ行き)」を見ながら、さらに価格を引き上げていく「攻め」の段階的プライシングにあります。
例えば、ある連休の価格を「ランクA(20,000円)」で先行販売したとします。
・90日前:予約ペース(オンハンド)が好調で、すでに残室80%(20%販売済み)。このペースは予測を上回っているため、価格を「ランクA+(22,000円)」に引き上げます。
・60日前:価格を上げたにも関わらず、予約ペースは衰えず残室50%。まだ需要の底が見えないと判断し、価格を「ランクA++(25,000円)」に再引き上げ。
・30日前:残室20%。競合も満室になり始めたため、最後の在庫は「最高値(30,000円)」で販売する。
これが、予約ペースに基づいたダイナミックプライシングの基本シナリオです。
なぜ一気に最高値にしないのか。それは、需要の「真の強さ」は、実際に販売してみるまで分からないからです。最初から高すぎる価格を設定すると、予約が一切入らない「高値の空室」リスクを負います。
需要の強さ(=予約ペース)という市場からの「回答」を見ながら、小刻みに価格を「テスト」し、引き上げていくことで、予約の勢いを殺さずに収益(ADR)を最大化する「最適点」を探るのです。
この段階的価格調整で、自施設の予約ペースと「同時」に監視すべきなのが、「周辺競合」の価格と残室状況です。もし、自施設の予約ペースが好調で、かつ「競合Aも値上げした」「競合Bが満室になった」という情報が入れば、それは「市場全体の需要が予測より強い」という強力なサインです。
ピーク需要の利益最大化において、使える武器は「価格(縦軸)」だけではありません。もう一つの強力な武器が「宿泊日数」のコントロール、すなわち「MLOS(最低宿泊日数)」設定です。
MLOS(Minimum Length of Stay)とは、その名の通り「最低宿泊日数」を意味します。これを「2」に設定すると、その日は「1泊」での予約ができなくなり、「2泊以上」の予約しか受け付けられなくなる、非常に強力な在庫コントロール手法です。
このMLOSが最も効果を発揮するのが、3連休(土・日・月)です。最も需要が集中するピーク日は、連休中日の「日曜日」です。ここでMLOSを設定しないと、どうなるでしょうか。
「日曜日のみ1泊」という予約が殺到します。すると、その前後の「土曜日」や「月曜日」の客室は、1泊予約の「飛び石」によって分断され、売れ残ってしまう(=空室になる)リスクが高まります。
そこで、ピーク日の「日曜日」に「MLOS=2泊」を設定します。これにより、「日曜日1泊」の予約をブロックし、「土・日」または「日・月」の連泊予約を優先的に確保するのです。
MLOSの狙いは、ピーク日の「1泊」の予約で貴重な在庫が埋まるのを防ぎ、その前後の「肩(ショルダー)」と呼ばれる日(例:土曜日や月曜日)まで含めた「連泊」の顧客を優先的に獲得することが重要となります。
1泊の単価が3万円でも、2連泊で5万円(平均2.5万円)の方が、施設全体の売上(RevPAR)は格段に高くなります。MLOSは、ADR(単価)だけでなく、総売上と利益を最大化するための高度な戦術です。
ただし、MLOSは「諸刃の剣」なので、市場の連泊需要をデータで見極めながら、解除するタイミングも視野に入れて運用すべき高度な戦術となります。
「イベント」や「連休」といったピーク需要は、宿泊施設にとって最大の「ボーナスステージ」です。この機会を「満室だが利益が出ない」という結果で終わらせるか、「利益を最大化」させるかは、ひとえにマネージャーの「利益設計」にかかっています。
その設計は、(1) 1年前からの「需要の特定」と、安売りを防ぐ「先行販売価格」の設定から始まります。次に、(2)「予約ペース」という市場の反応を見ながら「段階的」に価格を引き上げる、動的なプライシングを実行します。
さらに、(3)「MLOS」という武器を使い、価格(縦軸)だけでなく「宿泊日数(横軸)」もコントロールし、連泊を取り込むことで総収益の最大化を図ります。
これらの戦略は「勘」や「経験」だけで実行するものではありません。「データ」に基づき、「ルール」を設計し、実行・検証する。それこそが、需要ピークを絶対に逃さない、中〜上級者のレベニューマネジメント(利益設計)なのです。
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