閉じる 
閉じる 
OTA レベニューマネジメント

2025.12.16

2025.12.16

なぜ満室のはずが空室だらけに? オンハンド好調なのに売上が落ちる理由を解剖

「オンハンドは順調なのに、最終的な売上が予測に届かない」という経験はありませんか。多くの場合、その最大の要因は「キャンセル率」の管理不足にあります。

この記事では、キャンセルが単なる「失注」ではなく、いかにして「稼働率」「収益予測」「在庫効率(ADR)」というレベニューマネジメントの根幹を破壊するかを徹底的に可視化します。キャンセルを「コスト」として正確に認識し、管理可能な変数として捉え直す思考法を身につけてください。

「稼働率」と「収益予測」への打撃

キャンセルが収益に与える第一の打撃は、予測と実績の乖離(かいり)です。
特にレベニューマネジメントの精度は「正確な需要予測」に依存しており、管理されていないキャンセルは、その予測モデル自体を根底から揺るがします。

ホテル在庫の特性:「今日の空室」は「明日に持ち越せない」

ホテルビジネスの鉄則は、客室が「陳腐化する在庫」であるという点です。航空機の座席や劇場のチケットと同様、その日に販売できなかった客室は、翌日に持ち越すことができません。つまり、「今日の空室」は「永遠の機会損失」と同義です。この特性が、キャンセルという行為をホテル経営における重大なリスクにしています。

仮に満室の予約(オンハンド100%)を達成していても、宿泊日直前で10%のキャンセルが発生すれば、稼働率(OCC)は90%に着地します。問題は、その10%の客室が、本来であれば「泊まりたかった(=キャンセルしなかった)他の顧客」に販売できるはずの機会を奪っていることです。特にピーク日において、直前キャンセルは貴重な販売機会を奪い、稼働率を直接的に引き下げます。

多くの施設が「オンハンド(現時点の予約数)」をKPIとして追跡しますが、キャンセル率が高い施設ほど、この数値は信頼性を失います。例えば、リードタイム90日前にオンハンドが80%に達していても、最終的なキャンセル率が20%であれば、実際の予約は64%(80% × 0.8)に過ぎません。この「予測と着地のズレ」が常態化すると、予算策定、人員配置、食材発注など、経営のあらゆる予測精度が低下します。

ヒント:キャンセル率は需要予測の最重要変数

レベニューマネジメント(RM)で本当に予測すべきは、単純な「予約数」ではありません。「キャンセル数を差し引いた、純粋な需要(=実際に宿泊する顧客数)」です。キャンセル率(%)とキャンセルの発生時期(リードタイム)をデータで把握することは、RMにおける需要予測の精度を左右する最重要変数となります。

「在庫効率」の低下と「オーバーブック」戦略

キャンセルが与える第二の打撃は、目に見えにくい「在庫効率」の悪化です。これは、単に部屋が空くという問題だけでなく、販売できたはずの「価格」が下落することを意味し、施設全体のADR(平均客室単価)を蝕んでいきます。

直前にキャンセルされた客室を、慌てて「再販売」しようとするとどうなるでしょうか。多くの場合、宿泊日が近づくほど顧客の価格弾力性は高まり、「割引価格」や「直前セール」でしか販売できなくなります。結果として、本来は高単価で販売できたはずの客室が、安い価格で埋められることになります。これが積み重なることで、施設全体のADRは徐々に低下し、収益性が悪化していくのです。

オーバーブック戦略の必要性

高いキャンセル率(例:平均20%)に恒常的に悩まされている施設が、収益を最大化するために取る戦略が「オーバーブック(O/B)」です。これは、キャンセルを見越して、あえて「在庫数以上(例:100室に対し115室)」の予約を受け付ける高度な在庫管理手法です。キャンセル率をデータで正確に予測できる施設だけが、この戦略によって機会損失を防ぎ、稼働率100%超えの達成を目指すことができます。

もちろん、O/B戦略には最大のリスクが伴います。それは、予測に反してキャンセルが発生せず、実際の宿泊客が客室数を上回ってしまう「ブッキングアウト(満室お断り)」です。これは、代替施設の手配コスト(通常、自社より高額な施設への振り替え)が発生するだけでなく、顧客の信頼を根本から裏切る行為であり、ブランドイメージに致命的なダメージを与えます。

キャンセル率を「感覚」や「昨年の平均」だけで運用している施設は、常に二者択一を迫られます。ブッキングアウトという「事故」を恐れてO/Bを控え、慢性的な「空室(機会損失)」を受け入れるか。あるいは、「空室」を恐れて過度なO/Bに踏み切り、「事故」のリスクに怯えるか。このギャンブルから脱却する唯一の方法が、データに基づいたキャンセル率の「管理」なのです。

「チャネル別」キャンセル率の傾向と対策

キャンセル率の管理は、施設全体の平均値(例:15%)を眺めているだけでは始まりません。利益責任者であるマネージャーは、その数字を分解し、「どの入口(チャネル)から、どのような顧客がキャンセルしているのか」を特定する必要があります。

一般的に、宿泊施設へのロイヤルティが高い顧客が集まる「公式サイト」経由の予約に比べ、「OTA」経由の予約はキャンセル率が高い傾向にあります。これは、OTAが本質的に「複数の施設を比較検討する」プラットフォームであり、ユーザーが気軽に複数の施設を「仮押さえ」し、後でキャンセルする行動が定着しているためです。

中でも、「外資系OTA(特に事前決済を必要としないプラン)」や、直前予約・直前キャンセルが容易な「当日予約アプリ」などは、他のチャネルに比べてキャンセル率が突出して高くなるケースが見られます。これらのチャネルは、集客力がある一方で、収益管理のノイズ(不確定要素)にもなりやすい諸刃の剣です。

明日から着手すべきは、「チャネル別」および「プラン別」のキャンセル率をデータで可視化することです。例えば、「A社OTAの事前決済プラン」はキャンセル率3%だが、「B社OTAの現地決済プラン」は35%に達している、といった実態を掴みます。この数値的裏付けこそが、特定のチャネルやプランの販売比率を見直したり、キャンセルポリシー(保証金や事前決済)の強化を社内で提案したりするための強力な武器となります。

まとめ

ホテル収益におけるキャンセル率は、もはや「仕方ないコスト」や「運営上のノイズ」ではありません。それは、施設の収益構造、予測精度、在庫効率のすべてを左右する「管理・予測すべき最重要KPI」です。

キャンセルを放置することは、稼働率の低下を招くだけでなく、直前での安売りによるADRの下落という二重の損失を生み出します。この問題から脱却し、正確な需要予測に基づいた最適なレベニューマネジメント(オーバーブック戦略を含む)を実行するには、感覚的な運用を脱し、データを武器にすることが不可欠です。

まずは、チャネル別、プラン別、リードタイム別にキャンセル率を徹底的に可視化することから始めてください。その数値(ファクト)こそが、あなたの施設を「空室」と「事故」のジレンマから解放し、利益を設計するための第一歩となります。

他の人はこちらも読んでいます

現在、表示するeBookはありません。

Contact
お問合せ
貴社の施設規模や課題に沿って
最適なプランをご提案いたします→
Company
会社概要
詳しくはこちら→
Recruit
採用情報
詳しくはこちら→