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2026.03.05
2026.01.29
「なぜ、ホテルの価格は毎日変えなければならないのか?」
この問いに、経営的な視点で即答できるでしょうか。価格調整が「作業」になっていませんか。RMは「満室」を目指す単純作業ではありません。
本記事では、RMが「利益を設計する」ための経営戦略である理由を、その基礎理論から徹底解説します。全ての土台となる思考のOSをアップデートしましょう。
レベニューマネジメント(RM)は、ホテル経営において最も重要な経営戦略の一つです。しかし、その本質的な目的を誤解しているケースが散見されます。まず、RMが単なる「価格調整」ではなく、「収益設計」である理由を定義します。
RMとは、需要と供給のバランスを読み、収益機会を最大化する科学的なアプローチです。重要なのは、これら3つの「適切(Right)」のバランスを取ることです。例えば、高単価を支払う顧客(適切な顧客)が動き出すタイミング(適切なタイミング)より前に、安い価格で部屋を売り切ってしまっては、収益は最大化できません。
ホテル経営は、他のビジネスと決定的に異なる3つの制約を持っています。(1)客室数は急に増やせない(在庫固定)、(2)今日の空室は明日に持ち越せない(在庫が腐る=陳腐化)、(3)時期やイベントで需要が激しく変動する、の3点です。この厳しい制約の中で利益を出すために、需要(泊まりたい人の数)に応じて価格と在庫を動的に管理するRMが不可欠なのです。
RMの目的は「稼働率100%(満室)」にすることではありません。これはマネージャーが陥りがちな最大の罠です。RMの唯一の目的は「収益と利益の最大化」です。稼働率が低くとも、高い客室単価(ADR)を確保できれば、運営コスト(清掃費、リネン代、人件費)を抑えつつ、高い利益(GOP)を達成できる日は存在します。
極端な例ですが、これがRMの本質です。
稼働率100%(100室)でも売上100万円の日と、稼働率50%(50室)でも売上150万円の日。マネージャーが目指すべきは、間違いなく後者です。さらに、後者は清掃やフロント対応のコストが半分で済むため、利益率(GOPPAR)は圧倒的に高くなります。「満室信仰」から脱却し、利益ベースで意思決定する思考が求められます。
収益最大化という目的を達成するために、RMは「3つの柱」で成り立っています。これらは全て連動しており、どれか一つが欠けてもRMは機能しません。マネージャーは、この3つを常に俯瞰(ふかん)して見る視点が必要です。
全ての土台は「需要予測」です。これは占いではありません。過去の同曜日・同時期の実績(Pace)や、現時点での予約状況(On the books / OTB)、周辺イベント、競合の価格動向といった「データ」に基づき、未来の需要(最終的に何室売れるか、いくらで売れるか)をロジカルに予測します。この予測の精度が、RMの成否を分けます。
予測した需要の「強さ」に基づき、戦略的に価格を変動させます。「需要が強い(満室が見込まれる)日」は価格を上げ、収益を最大化します。「需要が弱い(空室が見込まれる)日」は価格を下げ、稼働を確保し、機会損失を最小化します。これは感覚ではなく、予測という「根拠」に基づいて価格を動かすことが重要です。
RMは価格を動かすだけではありません。むしろ「在庫コントロール」こそが利益設計の鍵です。例えば、需要が強い日は、利益率の低いチャネル(手数料の高いOTA)への在庫提供を停止(売り止め)し、利益率の高い「公式サイト」や「高単価プラン」に在庫を集中させます。どの「蛇口」をどれだけ開け閉めするかを設計する、高度な戦略です。
上記3点の需要予測が外れれば、最適な価格設定はできません。最適な価格を決めても、在庫コントロール(例:安いプランの売り止め)が伴わなければ、高単価で売る前に安い価格で売り切れてしまいます。マネージャーは、これら3つの柱が常に連動していることを意識し、日々の意思決定を行う必要があります。
RMの3つの柱を理解したら、次は「需要」の強弱に応じた基本的な戦略パターンを学びます。RMのオペレーションは、突き詰めればこの2つのパターンのどちらを実行しているかに集約されます。
需要が供給(客室数)を上回ると予測される日、いわゆる「売れる日」の戦略です。ここでは稼働率(OCC)を気にする必要はありません。いかに客室単価(ADR)を引き上げるかに集中します。
具体的には、
(1)販売価格を段階的に引き上げる
(2)利益率の低い安価なプラン(素泊まりなど)を停止する
(3) MLOS(Minimum Length of Stay:最低宿泊日数)を設定し、1泊の予約を制限して連泊を取り込む、といった施策が中心となります。
供給(客室数)が需要を上回ると予測される日、いわゆる「売れない日」の戦略です。ここでは空室を抱えること(機会損失)が最大のリスクとなります。いかに稼働率(OCC)を確保するかに集中します。
具体的には、
(1)販売価格を戦略的に引き下げる
(2)夕食付きプランが売れなければ「素泊まり」や「直前割引」など、安いプランを全チャネルで開放する
(3)特典(例:レイトチェックアウト)を付与して付加価値を高める、といった施策が中心です。
レベニューマネジメントにおける最終的なゴールは、この「単価(ADR)重視」の日と「稼働率(OCC)重視」の日を適切に見極め、両者のバランスを取ることです。
そして、ホテル経営の最重要指標(KPI)である「RevPAR(Revenue Per Available Room:販売可能客室1室あたりの収益)」を最大化することです。
RevPARは「ADR × OCC」で算出されます。このKPIを最大化することこそが、RMのゴールであり、マネージャーの使命です。
レベニューマネジメント(RM)とは、単なる「価格調整」ではありません。それは、ホテルの「在庫が腐る」という制約の中で、「需要予測」「価格変動」「在庫コントロール」という3つの柱を駆使し、施設の「利益を設計する」高度な経営戦略です。
マネージャーが目指すべきゴールは、感覚的な「満室」ではなく、データに基づいた「RevPAR(販売可能客室収益)」の最大化です。100室稼働で100万円の売上より、50室稼働で150万円の売上と高い利益率を選ぶ。この基礎理論の理解と実践こそが、感覚的な運用から脱却し、収益構造を可視化する第一歩となります。
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