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多くの宿泊施設様がGA4(Google Analytics 4)を導入されていますが、その多くが「サイト全体のアクセス数」や「予約完了数(CVR)」を大雑把に眺めるだけに留まっています。しかし、宿泊施設のサイト分析には、業界特有の”落とし穴”と”攻略ポイント”が存在します。
本記事では、この致命的な穴を塞ぐ技術的な設定から、宿泊検討者の特有の行動パターンを読み解く分析手法、さらには「どのプランが本当に予約の決め手になっているのか」を可視化する探索レポート活用術まで、弊社が実践してきた宿泊業特化のGA4テクニックを解説します。
宿泊施設のGA4分析において、まず最初に行うべき最重要設定が「クロスドメイン設定」です。多くの宿泊施設では、公式サイト(例: https://example-hotel.com )と、予約フォーム機能を持つ予約エンジン(例: https://reserve.booking-system.com )のドメインが異なります。
GA4の標準設定では、このようにドメインをまたぐ移動は「別のユーザーによる別のセッション」として扱われてしまいます。
つまり、ユーザーが公式サイトで客室やプランを魅力に感じ、「予約する」ボタンを押して予約エンジンに遷移した瞬間、GA4は「サイトA(公式サイト)から離脱した」と記録します。そして予約エンジン側で「サイトB(予約エンジン)に新規訪問した」と記録してしまうのです。これでは、CVR(予約率)の正確な計測は不可能です。
私たちが本当に知りたいのは、「公式サイトに来て、プランの魅力に惹かれ、予約ボタンを押した人」が、最終的に「何パーセント予約完了(CVR)に至ったか」という、一気通貫のデータです。
クロスドメイン設定は、この「ドメインの壁」をGA4に認識させ、example-hotel.com と reserve.booking-system.com を「同一のサイト」として計測させるための設定です。
これにより初めて、「予約ボタンを押した後の離脱(フォーム離脱)」なのか、「そもそも予約ボタンが押されていない」のか、課題の切り分けが可能になります。
クロスドメイン設定が完了すると、「ファネル(予約経路)分析」の精度が劇的に向上します。例えば、GA4の「探索レポート」で以下のステップを設定します。
このファネル分析により、「プラン詳細からフォームへの遷移率(ステップ1→2)」が極端に低い場合、「プランページの魅力付けや予約ボタン(CTA)の配置」に課題があると判断できます。逆に、「フォーム閲覧から入力完了の遷移率(ステップ2→3)」が低い場合は、「予約フォームの入力項目が多すぎる」という明確な改善ポイントが特定できます。
クロスドメイン設定で「正確なCVR」が測れるようになったら、次はそのデータを「顧客の行動パターン」で深掘りします。宿泊業の予約行動は、他の業界と比べて「デバイス」と「曜日」による変動パターンが非常に特徴的であり、この傾向を掴むことが施策の精度を分けます。
これは多くの施設で見られる典型的な行動パターンです。
平日の通勤時間や休憩時間、あるいは夜のリラックスタイムに、ユーザーは「スマートフォン」で旅行先の情報収集やプランの「比較検討」を行います。この段階ではまだ予約の意思は固まっておらず、「ブックマーク」や「お気に入り登録」に留まることが多いです。
そして週末、特に土日の日中や夜に、今度は「PC(パソコン)」を開き、平日に比較検討した宿の情報を家族やパートナーとじっくり見比べます。大きな画面で客室の写真やプラン内容を再確認し、納得した上で入力しやすいPCのキーボードで「予約(コンバージョン)」を完了させる、という流れです。
この仮説を検証するために、GA4の「探索レポート」で「デバイスカテゴリ」と「曜日」を軸にしたクロス分析を行います。
・平日の分析:「曜日=月~金」「デバイス=スマホ」でセグメントし、「プラン一覧ページ」や「客室詳細ページ」の閲覧数(PV)や滞在時間を見る。→ここでいかに「比較検討」の土俵に乗っているかを確認します。
・週末の分析:「曜日=土・日」「デバイス=PC」でセグメントし、「コンバージョン率(CVR)」を見る。→ここでいかに「最終的な予約」を取り切れているかを確認します。
この分析で、「平日のスマホ閲覧は多いのに、週末のPCでのCVRが低い」場合、情報収集段階では魅力的だったが、最終的な比較検討で競合やOTAに敗れている可能性が示唆されます。
この分析結果(曜日×デバイスの傾向)から、導き出される施策の優先順位は明確です。
・スマホサイト(平日対策):予約完了(EFO)よりも、まず「プランの比較検討のしやすさ」を最優先で改善します。小さな画面でもプランごとの違い(特典、価格、客室)が一目でわかるようなUI/UX設計、魅力的な写真の選定が重要です。
・PCサイト(週末対策):情報収集は終わっている前提で、「予約フォームの入力しやすさ(EFO)」や、「記念日オプション」などのアップセル導線の分かりやすさを優先的に改善し、CVRの最大化を図ります。
正確なCVRが計測でき、顧客の行動パターンも掴めてきたら、いよいよ「どの商品(プラン)が売上に貢献しているのか」という核心的な分析に進みます。GA4の「探索レポート」を使えば、特定のプランページが予約の「決め手」になったのか、それとも単に閲覧されただけで「素通り」されたのかを可視化できます。
多くの施設では、「最も高単価なAプランが売れてほしい」という希望と、「実際にお客様が予約の決め手にしているBプラン」との間にギャップが存在します。
「予約数」だけを見て「Bプラン(例:スタンダードプラン)が一番売れている」と判断するのは早計です。もしかすると、多くのユーザーは「Aプラン(例:露天風呂付客室プラン)」のページを見て期待感を高め、その上で「Bプラン」に着地して予約しているのかもしれません。GA4では、この「予約(CVR)」と「閲覧(PV)」の関係性を分析する必要があります。
この分析にはGA4の「探索レポート」で「セグメント」機能を使います。
例えば、「Aプラン(露天風呂付客室プラン)のページを一度でも閲覧したユーザー」というセグメントを作成します。そして、このセグメントのユーザー(Aプランを見た人)と、それ以外のユーザー(Aプランを見ていない人)とで、サイト全体の「コンバージョン率(CVR)」を比較します。
もし、「Aプランを見た人」のCVRが「見ていない人」のCVRよりも明らかに高い場合、たとえAプラン自体が(高額なため)たくさんは売れていなかったとしても、Aプランのページはサイト訪問者の期待感を高め、他のプランの予約を後押しする「強力な“撒き餌”コンテンツ」として機能している、と判断できます。
この分析結果に基づき、戦略的なアクションを決定します。
・分析結果①:「閲覧数も多く、CVRも高い」プラン
これは文句なしの「エースプラン」です。トップページの最も目立つ場所や、SNS、メルマガなどで露出を最大化し、さらに販売数を伸ばす施策を打ちます。
・分析結果②:「閲覧数は多いが、CVRが低い」プラン
これが「最も改善の余地があるプラン」です。「期待して見に来たが、予約の決め手に欠けた」状態です。写真が魅力的でない、プラン内容の説明が不十分、特典が弱い、価格設定が不適切、など様々な原因が考えられます。A/Bテストなどで内容を早急に見直す必要があります。
・分析結果③:「閲覧数は少ないが、CVRは高い」プラン
これは「隠れた優良プラン」です。プラン内容は刺さっているのに、単純に「見つけてもらえていない」状態です。サイト内導線(例:トップページや関連ブログ)を見直し、このプランへの露出を強化するだけで、売上の純増が見込めます。
ある旅館では、レジャー層向けの「懐石プラン」に力を入れていましたが、プラン別CVR分析を行ったところ、サイトの隅に置いていた「素泊まりプラン」を閲覧したユーザーのCVRが、想定外に高いことが判明しました。
深掘りすると、それらのユーザーは「平日の直前」に「Google検索(地域名+ビジネスホテル)」経由で流入していることが分かりました。この「事実」から、「当館はレジャー専用だと思っていたが、実際は近隣のビジネスホテル不足の受け皿として、ビジネス客に選ばれている」という「仮説」が立ちました。
そこで、「ビジネス・出張向け」というカテゴリを新設し、「素泊まりプラン」と「領収書発行可」といった情報を目立つ位置に配置する「施策」を実行。結果、これまで取りこぼしていたビジネス需要の取り込みに成功し、平日の稼働率改善と直販売上向上に繋がりました。
GA4は、ただ導入するだけでは「数字を眺める」ツールに過ぎません。しかし、宿泊業特有の「クロスドメイン問題」という穴を塞ぎ、「デバイス×曜日」という顧客の行動傾向を掴み、「プラン別CVR」という商品の実力を正しく計測する。こうした「宿泊業特化」の視点で分析することで、GA4は初めて「直販率を向上させる戦略的武器」へと進化します。
「予約ボタンを押した人は、なぜフォームで離脱したのか?」「平日にスマホで見ていた人は、週末PCで予約してくれたのか?」「閲覧は多いのに売れないプランの“敗因”は何か?」
データから顧客の「声なき声」を読み解き、仮説を立て、次のアクションを設計すること。それこそが、OTA依存から脱却し、「販売装置」としての公式サイトを設計するマーケティング責任者の真の役割です。本記事で紹介したテクニックを第一歩として、ぜひGA4データと向き合ってみてください。
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