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多くのOTA担当者が信じる「口コミ評価を上げれば、掲載順位は上がる」という神話。しかし、一休.comにおいては、その常識は必ずしも通用しません。高評価にも関わらず、なぜか競合施設の後塵を拝する。
その背景には、プラットフォームのビジネスモデルとラグジュアリー市場の特性に根差した、極めて合理的、しかし冷徹な掲載順位ロジックが存在します。 この記事では、そのブラックボックスを解き明かし、順位という表面的な指標に一喜一憂する運用から脱却するための、本質的な戦略を提言します。
では、ユーザー満足度を示す「口コミ評価」は、順位に影響しないのでしょうか。答えは「影響はするが、販売実績ほど決定的ではない」です。その背景には、一休.comというプラットフォームが持つ特有の「ブランド力」が関係しています。
<h3>「一休ブランド」による、掲載施設の品質保証という暗黙の前提</h3> 一休.comは、厳しい掲載基準を設けることで「ここに掲載されている施設は、どれも一定以上の品質が保証されている」という、強力なブランドイメージをユーザーとの間に築いています。この「一休ブランドによるフィルタリング」が、個々の施設の口コミ評価の重要性を相対的に下げているのです。
ユーザーは、「一休に載っているのだから、どこを選んでも大きな失敗はないだろう」という信頼感を前提に施設を探します。そのため、口コミ評価が4.5点か4.6点か、といった僅差の評価よりも、「今、実際に多くの人に選ばれており、売れている」という事実(=販売実績)の方が、ユーザーの意思決定に与える影響、そしてアルゴリズムが評価する「信頼性」として、より強く作用するのです。
ここで、ある高級旅館「A亭」の架空の事例をもとに、掲載順位と売上戦略の関係性を考えてみましょう。
【状況】 A亭は、口コミ評価で常にエリアトップクラスの4.7点を維持しているにも関わらず、掲載順位では常に競合の「B館」(評価4.5点)の下に位置していました。
【分析】 A亭は、比較的安価なスタンダードルームの販売比率が高く、客単価はエリア平均並みでした。一方、B館は客室数は少ないものの、露天風呂付き客室などの高単価な部屋の比率が高く、総売上金額でA亭を上回っていました。
【戦略変更】 A亭は、単に口コミ評価を維持するだけでなく、「総売上金額」を意識した戦略に転換。スタンダードルームの販売数を一部制限し、付加価値の高い「特別会席付きプラン」や「記念日プラン」といった高単価プランの造成と販売に注力しました。
【結果】 戦略変更から3ヶ月後、A亭の客単価は15%向上。総売上金額でB館を逆転した月には、口コミ評価は変わらないにも関わらず、掲載順位で初めてB館を上回ることに成功しました。
この事例が示すのは、掲載順位を上げるためには、顧客満足度を追求するだけでなく、「どの商品を、いくらで、どれだけ売るか」という、極めて戦略的なレベニューマネジメントの視点が不可欠であるという真実です。
ここまで解説してきたように、一休.comの掲載順位は、施設の様々な活動の結果を映し出す「鏡」に過ぎません。鏡に映る順位そのものを操作しようと一喜一憂するのは、本質的なアプローチとは言えません。
我々プロフェッショナルが最も重要視するのは、掲載順位という「結果」ではなく、その結果を生み出す「原因」、すなわち「高単価・高収益な予約が、安定して生まれ続ける"売れる仕組み"」を構築することです。
この"売れる仕組み"とは、具体的に以下の要素から構成されます。
これらの「仕組み」を徹底的に磨き上げること。それこそが、一休.comという市場で持続的に生き残り、成長するための唯一の道です。そして、その結果として、掲載順位は自ずとついてくるのです。順位を追いかけるのではなく、顧客と、そして自施設の利益と真摯に向き合うこと。それこそが、我々が最も大切にすべき本質です。